映画「バティモン5」に映る“移民たちのリアル” 映画撮影の背景について、ラジ・リ監督に聞く
本作の舞台である架空の街モンヴィリエのモデルは、ラジ・リ監督が育ったパリ郊外の移民労働者の居住地モンフェルメイユだ。 民間の共同所有物件が多いこの地域は、投資家たちがアパートを大量に買い占め、すぐに売って多額の利益を得ようとしたものの失敗。賃貸に出すことを余儀なくされたあげく、管理費を支払わなかったことから、劣化が急速に進んでいた。 行政はこうした事態に対し、都市再生計画を実施。建物の取り壊し前に住戸を買い取ったが、補償金から未払い管理料が差し引かれたことで、住民たちが受け取る補償金はごくわずかだった。
そんな街で育った、ラジ・リ監督は1978年生まれ。マリにルーツを持ち、この地にあるバティモン5(2020年に解体 ※バティモンは建物の名前)で育った。1990年前半から、地域全体の再生計画が始動し、1994年にはボスケ団地にあるバティモン2が爆破により取り壊された。劇中でも爆破シーンがあるが、これこそがラジ・リ監督の原風景なのだ。 ■人種などを理由とした職務質問も 行政が自分たちにとって都合の悪い者にレッテルを貼り、排除しようとする。それは、本作だけではなく、世界的に見られる傾向であろう。
例えば、日本でも同様の事象がある。もちろん、違法行為をしている外国人は日本のルールを守れない者として国外退去になるべき対象だと言えるだろう。 しかし、現在、人種などを理由に必要のない職務質問を繰り返し受けている人もいる。そして、そのことが憲法に違反する差別であるとして、2024年1月には、外国出身の3人が国などに賠償を求めて提訴した。 こうした日本の現実は、ラジ・リ監督の前作『レ・ミゼラブル』でも扱われたBAC (犯罪対策班)とも状況が近似する。
筆者は実際に日本に帰化した外国人から、警察官から職務質問を受けて、在留カードを見せたところ、「こいつ、帰化してやがる」と言われた、という話を聞いたことがある。 残念ながら、こうした外国人差別は、ビジネスの世界にも存在する。 日本企業から信用されたいために、先に代金を支払ったものの、商品を納品してもらえなかった外国人経営者の企業のケースもある。 在日外国人は、このような日本人に対して怒るというよりは、諦めてしまっているようだ。