東京都・宮坂副知事が見た「自治体DX」理想と現実 都の外郭団体で未曾有のシステム大移動を支援
周囲に相談もできなければ、(移行に必要な)膨大な文書を隅から隅まで読み込む余裕もない可能性がある。われわれが相談相手になったり情報提供したりしているが、62区市町村全部が情報技術に詳しい人材を採用するのは無理だ。 こうした状況にある区市町村のデジタル化支援を行うために、ガブテック東京という組織を立ち上げた。都庁でもできなくはないが、組織が都庁内にあると都の仕事が最初になるので、あえて外に出して区市町村と都の真ん中にニュートラルな形で置いた。
自治体で情報技術者やエンジニアを採れるなら、こんな新しく面倒くさいことをやらなくてもいい。だけど、公務員の給料は急に上げられないし、働き方も公務員法のルールがあるのでそんなに変えられない。少なくとも、「e-Japan」(※ 政府が2000年に示したIT社会実現の構想)から、20年以上行政のデジタル化はうまくいかなかった。それは、採用の仕方がうまくいっていないからだ。 広域なり、区市町村のもう1個上のレイヤーでまとめて採用するような、過去にないやり方に変えないと同じことを繰り返してしまう。
――ガブテック東京で採用した人材を「シェアリング」して、人材難にある区市町村を支援する、と。 これ(エンジニアをシェアする手法)が正しいかわからないが、ガブテックは1つの知恵だ。(都庁で)採れなかった人が来てくれていて、一定の成果は出ている。自治体のシステムに詳しい人もいれば、ずっとクラウドを民間でやっていた人もいる。 ■移行後のコストは見積もり切れていない ――一方で、システム移行に当たっては“コスト”の問題を気にする自治体も多いです。国には、どのような課題を伝えていますか。
これは結局、(国からの)「今よりいい場所に引っ越さないか」という話で、基本業務が変わるわけではない。期日に間に合うと「補助金」が出るが、遅れる自治体が出始めているので、「遅れると補助金はどうなるの?」という問題がある。一方で引っ越し後に(システムの)ランニングコストが上がる可能性もあり、そこも見積もり切れていない。 住民から「引っ越してほしい」と頼まれたわけではないし、住民向けの事務は急に変わらないので、運用経費が今より高くなると住民にも説明しづらい。コストは長い目で見れば「3割下がる」という話があるが、今は引っ越す作業だけで精一杯なので、そこまではいけないのではないか。