センバツ高校野球 大垣日大、最後まで全力 六回2点反撃及ばず /岐阜
兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で18日に開幕した第95回記念選抜高校野球大会(毎日新聞社・日本高校野球連盟主催)で、県勢の大垣日大は第3試合で沖縄尚学(沖縄)と対戦した。昨秋の九州大会を制した強豪に食らいついたが、1点を追う終盤は打線が奮起できず、3―4で惜敗した。初戦を突破することはできなかったものの、全力プレーを貫いたナインに、スタンドからねぎらいの拍手が送られた。【黒詰拓也、森田采花、安徳祐】 肌寒くなった午後5時45分、試合が始まった。ピンク色のウインドブレーカーで鮮やかに染まったアルプス席から大きな声援を受けた選手たちは、憧れの舞台に飛び出していった。 先発は2022年秋の県大会と東海大会で好投し、センバツ出場の原動力となったエース山田渓太(3年)。「相手がどこであっても、真っすぐで押す」と試合前に語っていた最速143キロの右腕はテンポ良く投げ、一回を3人で抑えた。父の人巳さん(57)は「内角を攻め、できれば最少失点で抑えて」とマウンドの息子を祈るように見つめた。 試合が動いたのは三回。山田が連打を浴びて2死満塁とされ、相手の4番を迎えた。初球を左中間席に運ばれて4点を失う。スタンドは一瞬静まり返るも「頑張れ」との声が上がり、ナインを鼓舞した。 22年春のセンバツに出場した野球部OBの森下大地さん(18)=今春卒業=は「まだ序盤。昨年の経験を生かして思い切ったプレーを見せてほしい」と期待を込める。 四回、高橋慎(3年)、米津煌太(同)の連打の後、山田の遊ゴロで相手のミスを誘って1点を返す。シンバルなどを担当する吹奏楽部の宗宮歩未さん(17)は「選手の力になるよう演奏したい」と見つめる。六回には代打で出た主将の日比野翔太(3年)の安打を皮切りに走者をため、相手守備のミスもあって2点を追加。1点差に迫り、スタンドは大きく盛り上がった。 日比野の父、志郎さん(40)は「感無量。何も言えない。流れを変える一打だった。あと1点なんとかとってほしい」と力を込めた。だが、その後、チームは球速140キロに迫る相手エースを崩すことができず、追い付くことができなかった。 ◇副教頭揮毫「入魂」 ○…大垣日大のアルプススタンドには、新調された横断幕が掲げられた。縦約1メートル、横約12メートルで、毛筆で力強く「入魂」としたためられている。揮毫(きごう)したのは書道部顧問の大橋隆副教頭(60)。毎日書道展で毎日賞に輝いたこともある腕前で、「魂のあるプレー」が野球部の心得であることから、この文字を選んだ。この日、大橋副教頭は新1年生に対する入学説明会のため甲子園には行けず、テレビ観戦しながら「粘り強く戦ってほしい」とエールを送っていた。 ……………………………………………………………………………………………………… ■ズーム ◇1球の重み、胸刻み 山田渓太投手(3年) 悔やみ切れない初球の失投だった。 2死満塁とされた三回。打席に入った4番打者を、自慢の内角直球で抑えるつもりだった。しかし、真ん中寄りに入り、まさかの満塁弾に。「自分の甘さが出た」。試合後、声を絞り出した。 引き締まった体から躍動感あるフォームで投げ込む直球は、東邦(愛知)時代を含めて監督歴56年の阪口慶三監督が驚くほど打者の手元で伸びる。開幕直前の練習試合で状態を上げて甲子園に乗り込んだ。この日はスライダーなどの変化球も切れ、2022年秋の公式戦のチーム打率4割7厘の相手打線からほぼ毎回三振を奪った。 22年春のセンバツでも登板し、今春は自分が引っ張るとの責任感が人一倍強かった。大会前には「自分が抑えないといけない」との重圧から食が細くなったが、「エースの『異変』は、チーム全体に影響を及ぼす」と、寮生活ではいつも通りに振る舞った。 身体能力が高く、厳しい練習もしっかりこなし、つらそうな仲間を励まし、試合で死球を受けた際は相手投手を気遣う優しい一面ものぞかせる背番号1は、1球に泣いた。胸に刻んだ「1球の重み」を正面で受け止めて誓う。「この夏、絶対に戻ってくる」【黒詰拓也】