好調キープの『虎に翼』、中高年はもちろんZ世代まで惹きつける「作品力」
NHKの朝ドラこと連続テレビ小説『虎に翼』が人気だ。向田邦子賞を2年前に最年少で獲得した吉田恵里香氏(36)による脚本が出色であり、ヒロイン・猪爪寅子(いのつめ・ともこ)役の伊藤沙莉(29)ら登場人物の演技も申し分なく、演出も凝っているから、ごく自然なことだ。 【写真】小林薫演じる穂高重親教授のモデル・穂積高遠(左の笑顔の人物)。中央に写っているのが穂積の祖父である渋沢栄一 ■ 抜きんでた脚本の力 まず脚本の大テーマがいい。憲法第14条「法の下の平等」を下地とし、全ての不平等への反意と多様性の尊重を言外に訴えている。 この条文が嫌いな人はほとんどいないのではないか。女性の弁護士、裁判所長の第1号となる寅子にとって格好の題材である。 その一方でこの条文は今も実現しているとは到底思えないから、古い話なのに現代まで地続きの物語になっている。私たちを取り巻く「法律」の本質に触れるという側面もあり、骨太な印象も与えている。 しかも物語のテンポが速く、エピソードもふんだんに収められているから、観る側を片時も退屈させない。それでいて説明不足になっていない。ちなみに吉田氏はここ10年の朝ドラ執筆者の中で最も若い。凄まじいまでの才能の持ち主である。
この物語には憲法のほかの条文も底流している。第13条「幸福追求権」である。登場人物たちはそれぞれが自分らしく、幸せに生きたいと健気に願っている。 寅子は見合い結婚をして家庭に入ることに希望を見いだせず、弁護士になって弱い人を守りたいと決意する。そして、「地獄」に足を踏み入れる覚悟で、設立間もない明律大学女子部法科に入学、そこでさまざまな葛藤を抱える学友と出会い、ともに成長していくという展開に、目下のところはなっている。 ■ 生きづらさ感じている人を勇気づける物語 明律大学女子部法科とその後に進んだ明律大学法学部の同級生・大庭梅子(平岩紙)は、夫と子ども3人を持つ主婦で、寅子たちの世話も焼いてくれる包容力あるれる女性だ。だが、実は家庭内では男尊女卑の考えに染まり切った夫や長男から虐げられていた。梅子は、離婚して次男、三男と暮らすことを切望しており、そのために法律を学んでいることを寅子たちに打ち明けたのだった。 当初は傲慢で、寅子たちを見下していた大学の同級生・花岡悟(岩田剛典)は、いずれ郷里の佐賀県に帰り、父親の後を継いで弁護士になるのが目標だった。 まわり道をしながら、幸せに辿り着こうとしている登場人物たちの姿は観る側の胸を打つ。 男女差別と戦った女性たちの奮闘記でないのは言うまでもない。生きづらさ(寅子の言葉だと「地獄」)を感じている全ての人を励まし、勇気付けようとする物語である。