三枝明那・さくらみこ、VTuber音楽の勢いを象徴 チャート上位を賑わす個性溢れる楽曲の強み
■CD Chart Focus 参考:https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2024-10-07/ 【ライブ写真】「シャロウ」を歌う三枝明那(Rain Drops) 2024年10月7日付(10月1日発表)のオリコン週間アルバムランキングで、WayVの『The Highest』が推定売上枚数62,748枚で1位を獲得。その後、三枝明那の『UniVerse』が59,682枚で2位、ICExの『Retro Toy Pop』が37,639枚で3位、さくらみこの『flower rhapsody』が28,347枚で4位と続いた(すべて推定売上枚数)。 今回取り上げるのは、2位につけた三枝明那と、4位のさくらみこ。いずれも多くのバーチャルライバー擁する大手事務所に所属するVTuberだ(三枝明那はにじさんじ、さくらみこはホロライブ)。VTuberの存在感は近年のエンタメシーンで日に日に増しており、それは音楽シーンも例外ではない。今週のチャート結果はその彼らの勢いを象徴するものだ。 特筆すべきはその音楽性である。彼らの楽曲はバラエティ豊かかつ豪華なクリエイター陣によって提供され、場合によってはVTuber自身も作詞に参加する。たとえば、三枝の『UniVerse』にはボカロPを中心に堀江晶太(kemu)やくじらといったさまざまな人気クリエイターが楽曲を提供しているほか、三枝自身が作詞に挑戦した楽曲「ララバイ」も収録。さくらみこの『flower rhapsody』にはいきものがかりの水野良樹ややしきんといった有名作家も参加している。こうした幅広い制作陣によって支えられているVTuberの音楽は、多彩さと個性に溢れている。 では、それぞれの作品について見ていきたい。 三枝明那の『UniVerse』の1曲目を飾るのは、ボカロPのChinozoが手がけた「あさが来る!」。跳ねるリズムに〈クララ クララ〉というキャッチーなフレーズが印象的。三枝のエモーショナルなボーカルも耳に残る。ボカロPの⌘ハイノミが制作した「アナザーシェード」は、さまざまな音が散りばめられた独特のアレンジが面白い。正解と書いて“ぼく”と読ませたり、自分自身と書いて“ふせいかい”と読ませる独創的な歌詞も要チェックだ。 三枝自身が作詞した「ララバイ」は、疾走感のある演奏の中で自分らしさを歌う1曲。軽やかかつ美しいエレピの音色がトラックにいい味を出している。ラストの「うぇいびー」はソリッドなロックチューン。激しい演奏をバックに三枝が感情を吐き出すように歌うボーカル表現が心を掴む。総じて、多彩な音楽性の楽曲を表現力豊かな三枝のボーカルで力強く歌い上げたアルバムだ。 一方で、さくらみこの『flower rhapsody』はポップで明るいアップテンポなナンバーが多い。 1曲目「SUNAO」は、〈素直がいちばん〉だということを否定していた自分が〈キミの愛〉をきっかけに変わっていく姿が描かれる1曲。ブラスセクションに施された豪華なサウンドアレンジが心地よい。じんが制作した「DAI DAI DAI ファンタジスタ」は、サビの〈大大大大冒険に 飛び出そうぜ!〉や〈大大大大問題も 吹き飛ばせ!〉といった繰り返しを多用したキャッチーなフレーズが痛快だ。「ライクとヘイト」は配信者ならではの悲哀を歌った歌詞が面白い。堀江晶太が作曲した表題曲「flower rhapsody」は瑞々しいピアノのタッチやストリングスアレンジが美しく、その中で歌われる〈でも わたし、わたしでよかったよ〉といった自己肯定のメッセージが感動的だ。全体的に軽快なロックサウンドからレトロなエレクトロサウンドまで多彩な音色を織り交ぜた煌びやかなサウンドが気持ちいい。 主にYouTubeをメインに活動する彼らにとって音楽や映像との相性はよく、デジタル人気にとどまらずこうしたCD作品にも結果が表れていることから、今後もさらに人気を拡大することが期待される。その際に重要となるのは、個性溢れる楽曲を生み出すクリエイター陣の存在と言えるだろう。
荻原梓