懐かしの名曲が満載 劇団SET稽古場レポート
劇団スーパー・エキセントリック・シアター創立45周年記念・第62回本公演として上演される『ニッポン狂騒時代~令和JAPANはビックリギョーテン有頂天~』。安保闘争に揺れる1960年代の日本を舞台に、アメリカンポップスの魅力に取り憑かれた若者と学生運動に明け暮れる若者たちの青春が描かれる作品だ。 【全ての写真】『ニッポン狂騒時代~令和JAPANはビックリギョーテン有頂天~』稽古場より 開幕まで約1週間のタイミングで、通し稽古の様子を取材した。 スタート前には各々がセリフや動きのチェックをしたり、演出を務める三宅裕司に流れを確認したり。和気あいあいとした雰囲気の中で準備が完了すると、レトロなおでん屋台のシーンで物語の幕が開く。若い頃を懐かしむ店主(永田耕一)と常連(田上ひろし)の哀愁、彼らと青年の人生観、屋台を「レトロ」「エモい」と喜ぶ若いカップル……。世代間のギャップがきっかけとなり、物語の舞台は1960年の日本へと遡る。 今回の主軸の一つが「1960年代のアメリカン・カヴァーポップス」。懐かしい名曲の数々と華やかなダンスが物語を彩っており、歌唱シーンはショーを見にきたような感覚に陥る。少し大袈裟な表情、レトロでポップな振り付けもキュートで、舞台美術や衣装が加わったら絶対に「カワイイ!」と感じるものになるだろうとワクワクした。 今でこそ、SNSなどを通じて世界中のアーティストにアクセスできる。わざわざ和訳・カバーするのは手間に感じてしまうが、作中のセリフから、時代背景や日本語カバーに対する思いが自然と理解でき、「だから当時これが流行ったのか」と納得できる。 日本における音楽、J-POPの歴史や変化を追体験できるのも、この作品の楽しさと言えるだろう。 レコード会社の長男・寛治(長谷川慎也)と新人メイド・直美(山城屋理紗)のドラマも見どころ。立場や育ちの違うふたりがお互いに刺激を受けて変化していく初々しさにきゅんとしてしまう。 もうひとつの軸は「学生運動」。少し身構えてしまうキーワードだが、そこは長年にわたって“ミュージカル・アクション・コメディー”を作り続けてきた劇団SET。演説やデモといった物々しい単語が飛び交う中でも、王道コメディからブラックユーモアまで交えた芝居で楽しく見せてくれる。 また、活動を行う学生たちと機動隊員の衝突シーンでは、木刀や角材なども使ってダイナミックなアクションを展開。銃や剣よりも長さと厚みのある角材を軽々と振り回す様子、それを防護盾で止める様子は迫力満点だ。栗原功平、野添義弘や西海健二郎、おおたけこういちをはじめとする面々が披露する美しく鋭い殺陣、フリではなく本当にぶつかっているからこその勢いと緊迫感に思わず息を呑んでしまう。 それと同時に、命をかけて国を守ろう・自分たちの手で現状を変えようとした当時の若者たちの思いが伝わってくる。現在の感覚からすると不思議なほどの情熱や信念を、リーダーの拓真(栗原)をはじめとする学生たちが説得力を持って表現していた。 流行の音楽と硬派な学生運動。一見真逆のふたつがふとしたことから交錯し、物語が動いていく。2時間強ほどノンストップで紡がれるが、時代の渦という大きな枠の中、各陣営で起きる変化、寛治と直美、直美の幼馴染である拓真の三角関係……といったシーンで緩急がついているため飽きることなく集中できる。 夢や理想を追いかける若者たちはもちろん、親世代の考えや思いに共感できる部分も多い。コメディ要素におもいきり笑いながらも、自身の青春やこれまでを重ね、様々なメッセージを受け取れるのではないだろうか。 高い歌唱力とアクションスキルで魅せるのはもちろん、歌やダンス、殺陣を笑いにつなげていくのも劇団SETの大きな魅力。若手メンバーが中心となって流行の音楽シーンや激化する学生運動を描いているが、ベテランたちも負けていない。柔軟な芝居や自由なアドリブでスキルの高さを見せたり、シリアスなシーンを深みたっぷりに演じてストーリーをグッと引き締めたり、縦横無尽な活躍で作品の質を上げている。 お馴染みとなっている三宅と小倉久寛のやり取りは、今回もどこまでが台本でどこからアドリブかわからない。息のあった掛け合いや絶妙な間合いで惹きつけ、三宅の無茶振りに小倉があたふたする様子で笑わせる。 誰かが思い切りのいい芝居や見事な表現をすると、周りで見ているメンバーから笑い声が上がるのが印象的だ。演じている自分たちも楽しむという姿勢が気持ちいい。また、稽古の中で各々が挑戦し、反応を見てブラッシュアップすることで、本番になった時に客席を笑いの渦に包むことができているのだろうと感じた。 冒頭からラストまで、笑いがふんだんに盛り込まれ、歌にダンスにアクションと見応え充分な本作。ノスタルジックな気持ちに浸りつつ、どこか元気ももらえる。昭和の喧騒を生き抜いた方々にも、当時を知らない若者たちにも刺さるだろう作品を、ぜひ劇場で見届けてほしい。 創立45周年記念に相応しいパワフルで華やかな本作は、2024年10月17日(木)~27日(日)、東京・サンシャイン劇場で上演。11月8日(金)~10日(日)にはAiiA 2.5 Theater Kobeで神戸公演も行われる。神戸公演にはスペシャルゲストとして女優・浅野ゆう子の出演が発表された。どの場面で登場し、どんな役柄でエッセンスを加えるのか、こちらも要注目だ。 取材・文:吉田沙奈 写真:(c)劇団スーパー・エキセントリック・シアター <公演情報> 劇団スーパー・エキセントリック・シアター 創立45周年記念・ 第62回本公演 ミュージカル・アクション・コメディー ニッポン狂騒時代 ~令和JAPANは ビックリギョーテン有頂天~ 東京公演:2024年10月17日(木)~27日(日) サンシャイン劇場 神戸公演:2024年11月8日(金)~10日(日) AiiA 2.5 Theater Kobe
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