暗躍するロシア「影の船団」が招く大惨事…原油を密輸しウクライナ戦費を稼ぎ、深刻な環境破壊やスパイ活動の懸念も
■ 「影の船団」とはどのような船か これまでの制裁では、西側の海運会社や保険会社が1バレル当たり60ドルを超えるロシアの原油輸出に関与することを禁じてきた。 米シンクタンクの大西洋評議会は今年1月の報告書で、「影の船団」を定義している。それによると、「影の船団」とは、主に老朽化した船で構成され、業界の標準的な西側の保険に未加入のまま航行するものだ。また、頻繁に船名や船籍登録を変更するため、その所有権が不透明であるともしている。 報告書ではさらに、危険を伴う影の船団に新しい船舶を使用するにはコストが高すぎるため、使われるのは古い船舶だと指摘している。ロシアのウクライナ侵攻以前は、船齢20年以上の船舶は、世界のタンカー船団のおよそ3%であったのに比べ、2025年半ばまでにそのシェアが11%にまで上昇すると予測された。また、こうした船舶は海事規制の範囲外で運行されるため、定期的なメンテナンスを受けていないともいう。 老朽化した船舶の使用は、それだけ安全性のリスクを高めることにも繋がる。 「影の船団」の横行は、ロシアへウクライナ侵攻に必要な戦費が流れ続ける懸念に加えて、船員や環境の安全を脅かす危険をはらんでいる。昨年5月、ガボン船籍のタンカー「パブロ」がマレーシア沖で爆発、炎上した。乗組員28人のうち3人が死亡。大型タンカーの寿命は約20年というが、「パブロ」は船齢26年であった。
■ 急増する怪しいガボン船籍のタンカー 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は11日、「影の船団」に属するとみられるガボン船籍の船舶が急増したと報じている。ガボン船籍のタンカーは100隻を超え、うち70隻の所有者が不明確であるという。 同紙は、こうした影の船団の乗組員が直面する危険についても詳報している。あるナイジェリア人の整備工は、乗組員は自前で救急箱や、抗生物質などの薬をまかなわねばならないと証言。病気になった場合は賃金が支払われないという。 別の乗組員は船齢22年のタンカーに乗った際、強風と大波にさらされ、船舶が今にも崩壊しかねない音を立てていたと話した。なお、両乗組員とも、こうした船舶での仕事は、通常よりも賃金が高かったことにも言及している。 影の船団はまた、船舶の所有者を特定されないよう船舶自動識別装置(AIS)を遮断することがある。他の船舶や担当当局による位置の把握を不可能にするため、このことも事故のリスクを高める要因の一つだ。 また、危険な瀬取り(せどり、タンカーが別のタンカーに海上で積荷を移し替える行為)も頻発しており、大規模な原油流出の懸念も指摘されている。そうした事故が起きた場合、適切な保険を有さない影の船団の尻拭いをさせられるのは、海域の納税者や国際機関であるかもしれないとの指摘も上がっている。 先のパブロ号に関しては明確な所有者もなく、座礁した残骸は放置された後、最終的にはマレーシア当局が対処せざるを得なかった。 ある保険ブローカーの海事幹部は昨秋、米ポリティコの取材に対し、影の船団に属する船舶と合法的に運行されている船舶との間に起きる事故は「無保険の運転手と衝突するようなもの」であると述べた。