コミケの時代が終わる? 賛否両論の原稿とファンの声から見えてきた日本最大の同人誌イベントの強み
■コミケは過渡期にある 12月30日から、日本最大の同人誌即売会「コミックマーケット103」が2日間にわたって開催される。それに先立ち、早稲田大学負けヒロイン研究会の箱部ルリ氏の執筆した、コミックマーケット(以下、コミケ)に関する原稿「コミケの時代の終わり―BLも、ニッチな本も消えていく」が大きな話題を呼んでいる。 【写真】人気イラストレーターによるコミケのカタログやAmazonでも人気の企業パンフレット 曰く、「コミケから女性向けジャンルが消失したこと、コミケに残った男性向けジャンルが退屈になりつつあることを確認できた。またコミケを見限り、少なくない同人作家がジャンルオンリーと一次創作に転進した」という。 この原稿については賛否両論様々な意見があるが、現在、コミケが過渡期にあることは間違いない。正確なデータこそないものの、コミケ参加者の高齢化が進んでいるといわれる。また、記者の知り合いで、いわゆる“壁サークル”といわれる大手同人誌作家に話を聞いたところ、「10年前と比べると格段に売り上げが落ちた」という。 ■イベントも発表の場も多様化 コミケ離れが進んでいると考えられる要因は、一つにコミケに替わるイベントが多くなっていることが挙げられる。それは箱部氏の原稿でも指摘されている通りだが、女性向けに強い同人誌即売会に関しては赤ブーブー通信社が開催する「コミックシティ」がある。さらに、オリジナルの同人誌に関しては「コミティア」という場があるのだ。 同人誌の発表の仕方も多様になってきている。2000年以降は同人誌を扱うショップも増えたため、コミケで販売しない同人作家や、コミケにわざわざ足を運ばない愛好家も増えた。紙ではなく電子書籍という形で、同人誌を制作する作家もいる。そして、コミケはかつて入場無料であったが、近年は有料化され、入場などのルールが複雑になってきたため、行かなくなったというファンもいる。 また、地方にいるファンにとって、コミケは足を延ばしにくいイベントになったという意見もある。地方在住の同人誌愛好家のA氏は、コミケに5年前から足を運ばなくなったという。その理由をこう語ってくれた。 「コミケそのものというより、地方在住者は東京に行くハードルが高い。交通費も高いし、一番の問題はホテルの宿泊料金。インバウンドの影響もあって、かなり割高になった。通販をしてくれる同人作家も増えているし、わざわざ大きな出費と会場の混雑を味わってまでコミケに行くメリットはないかな、と思う」 ■コミケがもつ唯一無二の特性 では、コミケはこのまま衰退していくのだろうか。記者は、その可能性は低いと見ている。依然として、コミケは日本最大の同人誌即売会であることは間違いないし、これほどのイベントを運営するノウハウは一朝一夕で習得できるものではないため、他のイベント事業者が真似するのは難しいためだ。 長年、コミケに参加し、今回のコミケにも参加し続けている同人作家B氏は、コミケの将来についてこう語る。 「あくまでも僕の感想だけれど、僕はコミケの来るもの拒まず去るもの追わずという自由な雰囲気が好きだから、ずっと参加しているんですよ。それに、お盆と年末年始という絶妙な時期に開催されているのもいい。この時期に合わせて同人誌を作るのが自分にとってのルーティーンになっているしから、気力が続く限り参加し続けると思っています」 そして、あらゆるジャンルの同人誌を扱っている点こそが、コミケの真髄だと語る。 「コミケほどあらゆるジャンルの同人誌が集う大規模なイベントって、他にないわけですからね。研究や評論などニッチなテーマを扱う同人サークルが、これほど集まっている同人イベントって、他にありますか? また、大学生の漫研のサークル数もコミケが圧倒的に多い。そういうニッチなサークルが、プロの同人作家や流行のサークルと同じ会場で同人誌を頒布しているって、凄いことですよ」 大手サークルの行列や、コスプレ会場のコスプレイヤーばかりがマスコミではクローズアップされがちだ。しかし、空き時間を使って会場を散策し、「こんな本を出している人がいるんだ」という発見があるのが、コミケの醍醐味と話す人は多い。B氏はこう結論付ける。 「特定のジャンルに特化したイベントは、そのジャンルが衰退するとイベントも消えてしまうことが多い。現に、過去には美少女ゲームのオンリーイベントで、結構規模が大きなものもたくさんありましたが、消えたものもたくさんあります。コミケの強みは、いい意味で雑多で何でもありな点で、時代に合わせて変化し続けている点。だから、そう簡単には衰退しないと思います」
文=元城健