<内部調査>なぜ北朝鮮の女性は子どもを産まなくなったのか?(3) 「非婚は反社会主義だ」…当局の宣伝と脅しに静かな抵抗 子どもを産んで浮浪児にすべきでない
◆「非社会主義」批判の刃を抜く当局 未婚同居と堕胎が標的
「母親大会」や日常的な宣伝にさしたる効果が見られないことが分かると、当局は「非社会主義」批判の刃を抜いた、と協力者は言う。 「(未婚カップルの)同居、堕胎現象と闘争することについての会議がありました。『同居は、結婚を忌避して公序良俗を乱す行為とみなして処罰し、結婚登録をしないのは自分だけいい暮らしをしようとする非社会主義行為である。積極的に申告して闘争しなければならない』と通達しました」(協力者B) 妊娠したのに出産せず堕胎することには、さらに強い処罰を科している。 「一番激しく闘争するのは中絶です。隠れて手術をした人も、手術を受けた人も罰せられます。とりわけお金をもらって中絶手術を施した者に対しては、教化(懲役)に送ると脅しています」 昨年12月、自宅で中絶手術をした恵山(ヘサン)市病院の産婦人科助産員が、「労働鍛鍊隊」に送られた。手術を受けた女性はまだ若いという理由で法的処罰を受けなかったが、当局は彼女を呼び出して責め、侮辱したという。 「労働鍛錬隊」とは、社会秩序を乱した、当局の統制に従わなかったと見なされた者、軽微な罪を犯した者を、司法手続きなしで収容して1年以下の強制労働に就かせる「短期強制労働キャンプ」のことだ。全国の市・郡にあり保安署(警察)が管理する。
◆ 国家が産めと言うから産むのはバカ…反旗を翻す女性たち
当局によるこうした恐怖を与える政策も、女性たちの考えを変えることはできず、むしろ反発を呼び起こしていると協力者たちは言う。 「(国家から)産めと言われたら産みますか? たとえ妊娠したとしても、産めますか?お金がかかってもできることなら中絶しようとします。バカじゃなければ」(協力者B) 「(女盟会議で出産奨励の通達があった後)自分が飢えているのに、子どもをどうやって産むのか、本人が産みたくないというのに、なぜ国がどうこうしろと言うのかなど、否定的な反応が多かった」(協力者C)
◆根絶できない非合法の堕胎手術
当局の処罰を避けるため、密かに中絶手術をしたり、危険な方法で堕胎を試みたりする事例も多いようだ。 「取り締まりがあまりにも厳しくなったので、病気の治療に行くと言って他の地域で手術して数日泊まって帰ってくるケースがあります。互いに口止めするので、誰かが通報しない限りバレることはめったにありません」(協力者A) 「最近は、針で胎児を殺す方法まで出てきました。国があまりに厳しく取り締まって捕まえるので、針で胎児を刺す施術をする人を探し回っていた女性を知っています」(協力者B) ※編集者注:針で胎児を刺して殺す施術だと思われる。想像しがたい極端な方法だ。 「いくら非合法の中絶を取り締まるとしても、産婦人科で働く女性たちは家で(不法に)中絶手術をしてお金をたくさん稼いでいます。妊娠しても産むわけにはいかないので、いくら取り締まっても子どもを堕胎するのです」 (協力者 A) 北朝鮮の女性たちが子どもを産まなくなったのは、当局の政策と家父長的な考えの男性の時代錯誤に対し、女性たちが静かに、そして強力に反旗を翻した結果だと見ることができる。独裁権力が八方手を尽くして子どもを産ませようとしても、それは果たせないだろう。(了) ※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
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