『プリシラ』『エイリアン:ロムルス』へと続く飛躍のきっかけに…ケイリー・スピーニーが『シビル・ウォー アメリカ最後の日』で築いたキルスティン・ダンストとの絆
2024年春に全米で2週連続ナンバーワンヒットとなり、いよいよ日本にも上陸したA24製作の衝撃の軍事サスペンス『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(公開中)。内戦状態に陥ったアメリカを舞台に、反政府軍が首都ワシントンD.C.に攻め入ろうとしている。そんな緊迫した状況は、遠く離れた日本に住む観客にもショッキングに映るに違いない。『エクス・マキナ』(15)、『MEN 同じ顔の男たち』(22)で知られる監督のアレックス・ガーランドは、本作を撮るうえで、戦場カメラマンを主人公に据えた。これが絶大な効果を発揮し、常に最前線を目指す彼らの目は、拷問や殺戮など、普通に暮らしていたら想像できないほどの恐ろしい状況を生々しく捉えていく。 【写真を見る】経験の浅いケイリー・スピーニーを公私で支えたというキルスティン・ダンスト ■キルスティン・ダンスト&ケイリー・スピーニーが演じる2人の戦場カメラマンが物語の軸に 主人公リーは高名な女性戦場カメラマン。サム・ライミ監督による「スパイダーマン」シリーズで知られ、近年は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(21)でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたキルスティン・ダンストが演じている。そして、リーに憧れ、カメラを持って行動を共にする写真家の卵、ジェシー役には、『エイリアン:ロムルス』(公開中)に主演し熱演を見せたのも記憶に新しいケイリー・スピーニー。最初は他人同士だったが、物語が進むほど師弟のような絆で結ばれていくリーとジェシーの関係の変化も映画をおもしろくするポイントだ。 ■スピーニーの心の支えとなったダンスト 師弟のような関係はスクリーン内だけで生まれたわけではない。ダンストとスピーニーも舞台裏で、似たような関係を築いていったというから興味深い。なにしろ、ダンストは子役として芸能界に飛び込んだキャリア30年以上の“ベテラン”だ。一方のスピーニーは5本の作品に出演しただけで、『シビル・ウォー ~』のようなシリアスで苛烈な作品に出るのは初めて。そんな彼女にとって、ダンストの存在は心強く、実際にリハーサルの段階から面倒を見てもらうことになり、多くのアドバイスを受けたという。「本当にすばらしい経験だった」とはスピーニーの弁だ。 劇中でダンスト扮するリーは、最初はスピーニー演じるジェシーに冷ややかな態度をとる。しかし、実際のダンストはスピーニーに家族のような愛情をもって接し、スピーニーは撮影期間の休日に、しばしばダンストの家に遊びに行ったという。ダンストの幼い子どもたちとの触れ合いを含めて、それはハードな演技が多いスピーニーにとって癒しになったようだ。ちなみに、子どもたちの父親であるダンストの夫は、本作の最も恐ろしい場面で登場し、リーやジェシーを戦慄させる残虐な兵士に扮したジェシー・プレモンス。私生活の彼は、劇中のキャラクターと同様ではないのでご安心を(?) ■ソフィア・コッポラにスピーニーを推薦したダンスト ダンストの導きは、これだけではなかった。『ヴァージン・スーサイズ』(99)以来、『マリー・アントワネット』(06)、『ブリングリング』(13)、『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』(17)と4度ソフィア・コッポラ監督の作品に出演している彼女は、当時コッポラが準備していた新作の主演にスピーニーを推薦する。本作の撮影後、その映画『プリシラ』(23)に出演し、不世出のスター、エルヴィス・プレスリーの若妻であるタイトルロールに挑戦したスピーニーは、2023年のヴェネツィア国際映画祭で見事に女優賞を受賞。これにより、ハリウッド注視の若手女優となったのだから、ダンストは彼女にとって、まさに恩人というべき存在となったのだ。 ■死線を越えながらリーとジェシーの絆が育まれていく 公開順は逆になったが、『シビル・ウォー ~』でのスピーニーのタフな経験が『プリシラ』や『エイリアン:ロムルス』に生かされたのは明白で、本作でのスピーニーの熱演はキャリアの分岐点になったともいえるだろう。 言うまでもなく、本作でのスピーニーの“師”ダンストも、幾度となく死線を越えるキャラクターに説得力を与え、これまでになくシリアスでタフな演技を見せる。彼女たちが扮する戦場カメラマンの師弟コンビは、動乱のニューヨークから、最前線になろうとしているワシントンD.C.を目指す。その旅になにが待ち受けているのか?2人の絆に注目しつつ、大いにハラハラしてほしい。 文/相馬学