泥沼の戦争の遺恨ない? ベトナムが米国製軍用機を導入へ 対中国だけじゃない政治的思惑とは
一番の理由は米国の外交方針
もうひとつ大きな理由、それはベトナムの著しい経済発展と、それに伴う市場規模の拡大があります。ベトナムは安い人件費によって製造業が好調で、急速な発展により個人の生活水準も向上しており、個人消費も増えています。 このような経済発展によって、アメリカからすると魅力的な市場に映るようになったのは間違いありません。 ベトナムとアメリカの交流は現在、防衛以外にも政府・民間の各分野で進んでおり、2000年には通商協定を締結して、アメリカ系企業がベトナム市場に進出。2023年には、首脳会談を開催し、その関係を包括的戦略パートナーシップに格上げすることで合意しています。こうした動きを鑑みると、両国は前世紀の敵同士という背景から脱却し、新しい関係を構築しようと動いていると見て取れます。 「敵の敵は味方」というのは、一般的に共通の敵がいるという点が共闘する理由になっています。しかし、前述したように両国を取り巻く現在の関係はそんなに単純なものではありません。 ベトナムが経済的に力をつければ、先行する中国と同じく兵器の分野でも高性能かつ高価格なものを導入しようという機運が高まるでしょう。実際、陸軍はT-90戦車を、海軍はゲパルト級フリゲートを、空軍は前出のSu-35を調達しています。 こうした動きの中で、アメリカも新兵器を売り込むことができれば利益に繋がります。 日本もベトナムに対しては防衛装備品・技術移転協定を結び、2024年7月には中古車両の移転が決定しています。すでに施設作業車の運用でベトナム軍兵士が陸上自衛隊の施設学校に留学しています。 アメリカにとっては、T-6「テキサンII」を引き渡すことでロシア一辺倒をいくらかでも崩したい思惑があるのではないでしょうか。今後、外交政策に基づいて、ベトナムにはこれまでのロシア式とは異なる兵器の導入が進むのかもしれません。
布留川 司(ルポライター・カメラマン)