売り上げも書店数も減少続く 「出版不況」の現状は?
書店数については、よく書店数の減少ばかりが取り上げられますが、JPO(日本出版インフラセンター)のまとめによると、書店数は確かに減っていますが、総床面積(総坪数)は減ってないようなのです(上の図表)。となると、書店の数の減少は、書店という業態自体が窮地に陥っていることを示しているのではなく、むしろその逆に、地域大手や全国大手の書店チェーンが、既存の店舗のスクラップアンドビルドによる規模拡大を続けているからかもしれません。 出版統計については、もう一つ大きな要素があります。電子出版(電子書籍)が、無視されているのです。次にこの点について、説明しましょう。
電子出版を入れてみると……
たとえば、アメリカの出版統計では、上の図のように、「紙+電子」の数字を出すことが、当たり前のようになっています。アメリカの書籍市場では、2007年のKindle登場以来、順調に拡大してきた電子書籍が、紙の書籍(黄色の部分=一般書)の減少を補い、書籍全体の売上は、ほぼ横ばいに推移してきたことが見て取れます。 日本でも、紙の書籍と電子書籍の売上を合計したらどうなるか。インプレス総研「電子書籍ビジネス調査報告書」のデータを元に、2013年までの数値で計算してみたのが以下です。
残念ながら、「出版指標年報」が暦年ベースなのに対して、「電子書籍市場規模」は年度ベースで、調査対象にズレがあります。そのため、本来、二つを単純に合計するのは適切ではないのですが、それを割り引いても、同じ傾向が読み取れると思います。 なお、雑誌の方は、電子雑誌を加えても、はっきりと減少を示しています。これは、やはり問題ではあります。一方で、コミックは、紙+電子の相乗効果で、市場が拡大しています(これについては、別の媒体で書いたので、繰り返しませんが、電子コミックが、コミック全体の1/4を占めるようになりました)。
ともあれ、紙の出版統計にも、電子の出版統計にも限界があり、出版産業にビジネスモデルが大きく変化する中、それだけで市場全体を判断するのは無理、ということが言えると思います。その「外」の変化に対する想像力が必要です。 電子出版が切り開いた新しいビジネス(たとえば、「LINEマンガ」などの無料コミックサービスや、「アルファポリス」「小説家になろう」など、ネットだけで著者を開拓するニュータイプの出版サービスなど。こうした事業者の収益は電子出版統計にもまだ十分反映されていはいないと考えられます)の収益も加えれば、出版市場が一方的に「崩壊」しつつある、という見方は誇張が過ぎると思います。 -------------------- (※追記) 出版統計に含まれていない出版社の収益源は、他にもあります。集英社の通販事業が好調で、半期の売り上げが20億円を突破した、という記事が最近出ました。 集英社 上期通販売上20億円超、「ミラべラオム」も本稼働へ(通販新聞) このような出版外からの収益も、出版統計には入っていません。「ポケモン」のようなキャラクタービジネスや映像、音楽事業なども同様です。ドワンゴとの合併前の発表では、KADOKAWAの全収益のうち、約1/3は映像・ネット/デジタル関連事業によるものでした。【1/27 10:35追記】 (※追記2) 書籍の出版点数に関してはどちらもトーハンの書誌データベースを使っている。書籍・雑誌の販売金額等についてはそれぞれ独自に推計している。【1/27 15:30追記】 -------------- 林 智彦(はやし・ともひこ)朝日新聞社デジタル本部。 週刊朝日、論座、書籍編集部などを経て、2009年からデジタル分野に。現在、新聞記事を元にした電子書籍「WEB新書」(自社サイトで販売)と「朝日新聞デジタルSELECT」(Kindle、Kobo、iBooks Storeなどで販売)の制作に携わる。電子書籍が「出版」の概念を拡大することで、紙の出版も電子出版も共に発展するシナリオを展望した『出版大復活』(朝日新書にて刊行予定)を執筆中。