女子レスリング界に見られる新しい潮流
重量級での新しい試み
ところが女子レスリングは、どうしても試合展開のバリエーションに乏しかった。技術的な精度の低さももちろんあるが、普及範囲の狭さも大きな原因だ。教えるコーチがもつ知識は、男女に共通だろうに、それぞれの国の特徴すら女子には満足に伝えられなかった。男女ともにタックルによる攻撃を得意とする 日本は、例外といってもよい。 ところが、ワンパターンに陥りがちだった女子レスリングのスタイルは、ようやく解消へと向かっている。たとえば、2016年にブラジルのリオデジャネイロで開催される五輪の影響だろう、近年は中南米からの選手派遣が目立っているのだ。女子柔道では強豪を排出することで知られているブラジルだが、これまでレスリングではなぜか存在感が薄かった。前述の伊調馨を驚嘆させたコロンビア選手のように、新たな素質をもった新しいレスリングのスタイルを見せてくれる選手が登場する可能性も高い。 今年2月、五輪の中核競技からレスリングが外されたとき、指摘された欠点のひとつに「女子の普及」があった。イスラム教徒が多い地域でさかんな競技のため、意識して普及しなければ男女平等の普及は望みにくいのがレスリングだ。ところが、いままで国際レスリング連盟は、競技種目として存在させるだけで、それ以上のことはしないできた。だが初めての南米での五輪をきっかけに、女子の普及に本気になるべきだろう。 そのとき、今年の世界選手権でも団体順位1位を獲得した日本の女子は、どうなるのか。現在、強国と呼ばれつつも苦戦している重量級での試みにヒントがありそうだ。67kg級の土性沙羅は、銅メダルを獲得しながら涙を浮かべて悔しがった。 「外国人は投げてくる。その対処を練習していかないと」 欧州の女子選手は大胆な投げ技を試みることが少なくない。それは、グレコローマンが盛んな地域での女子レスリングには、フリースタイルであっても豪快な投げ技の要素が加えられているからだ。今はまだ、ときどき出てくる"飛び道具"の印象がぬぐえない技の出し方が多いが、近い将来、なめらかに試合の展開に組み込まれるようになるだろう。 試合で異文化とぶつかり苦戦する経験が多い重量級を、あいまいに育成するのではなく具体的な対処方法を考えるべきだ。そのプロセスはきっと、今は最強を誇る日本の軽量級の将来にも大きく役立つはずだ。 (文責・横森綾/フリーライター)