「香水砂漠」と呼ばれた日本で香水の売り上げが伸び始めた理由とは
コロナ禍で在宅勤務の気分転換に
日本は香水の売り上げ規模が小さく、世界の業界関係者から「香水砂漠」と呼ばれていたという。ところがコロナ禍を経て売り上げが伸び始め、昨年の国内市場は前年比13%増の500億円に。日本人と香りの関わりにどんな変化が起きているのか。 毎年開催される伊勢丹新宿店(東京都新宿区)の香水イベント「サロン ド パルファン」の売り上げは、2022年には前年比50%という驚異の増加率で、13年に始まって以来の過去最高を記録。23年も微増した。多数の香りを自由に試せるブースを設ける一方、調香師などに焦点を当てたブースもあり、初心者からマニアックなファンまで多くの人を集めた。 調査会社の富士経済によると、香水の23年の国内市場規模は500億円。9年前の402億円から拡大を続け、コロナ禍の始まった20年は408億円と落ち込んだものの、再び拡大傾向へ。24年は547億円、26年には572億円まで伸びると見込む。 ここまで市場が拡大したのはインバウンド(訪日外国人客)の回復も背景にあるが、香りを楽しむ日本人が増えたのはなぜか。大手メーカー・高砂香料工業(東京都大田区)で市場調査などを担当する坂本晃治さんは、「Z世代」と「コロナ禍」という二つのキーワードを挙げる。 現在10代半ば~20代後半のZ世代の幼少期は、香水のような柔軟剤が登場した頃。日常的に華やかな香りにふれ、香水にも抵抗感がない。そしてコロナ禍によって自宅で過ごす時間が増え、在宅勤務の広がりで仕事とプライベートの境界も曖昧になり、気分転換や癒やしのために香りを活用する人が増えたという。
「ファッションの仕上げや、自分をより良く見せたくて香水を使う人が多かったが、コロナ禍以降は自分が楽しむために使うようになっている」と坂本さん。香水の需要は、Z世代の意識の変化とコロナ禍による価値の転換によって拡大していったのだ。 自分に合った香水を求める意識も高まっている。化粧品大手のポーラ・オルビスホールディングスは、顧客が自分の好む香りを見つける新サービス「ERAM(エラム)」を展開。オンラインで質問に答えるとおすすめの香り3種類が2ミリ・リットルずつ自宅に届けられ、翌月には別の3種類、3か月目には最も気に入った1種類が届く。送料込み月額3890円の定額利用サービスだ。 サービスを利用する愛知県の石倉優汰さん(29)は「自分に合う香りを探し続けてきた」と満足げだ。同じく大阪府の吉村あゆみさん(34)は「通勤時や休日のお出かけ時に香水を使って気分を上げている」という。 同サービスの事業責任者を務める大島康平さんによると、自宅で自分のペースで香水を試すことができる点が好評を得ており、「特に男性の利用者が増えている」。4月まで、大丸東京店(東京都千代田区)の特設コーナーにも出展した。