ダイナボアーズ最年長の安江祥光、チームの「幹」に手応え。競争も「楽しみ」。
たとえ話に出たのは、「火星人」だった。 三菱重工相模原ダイナボアーズの安江祥光は、「グラックス」ことグレン・ディレーニーヘッドコーチから聞いた言葉を紹介する。 「火星人が1日、我々と行動するだけで、我々が何を目的に、何をやっているのか、何をアピールしているのがわかるようなチームになっていこう」 40歳の現役プロラグビー選手は笑う。 「確かにラグビーを知らない、地球人ではない誰かが来た時にも『このチームはハードワークをするんだ、ディテール(細部)にこだわるんだ』と理解されたら、『(自分たちのスタイルは)誰が見ても伝わる』と言える。ファンの皆様、ラグビーを愛する皆様に、ダイナボアーズがどんなチームなのかをプレーで示せたらという気持ちです」 話をしたのは11月7日。藤沢市内の神奈川県立スポーツセンターで合宿をしていた。12月22日に初戦を迎える国内リーグワン1部の新シーズンへ、準備を進めている。 「グラックスが来てから礎を(築いている)。しっかりと1本の幹があり、そこに年輪を加えていくイメージです」 ディレーニーが指揮官となったのは2022年度。1部初参戦に向け、アシスタントコーチからの内部昇格で就任した。「礎」の形成は、そこから始まった。 かつてこの国のトーヨコラグビー部で社員選手をしたことのあるディレーニーは、部内で三菱グループの歴史を度々、リマインド。時折、グラウンドのある敷地で工場見学も実施する。 そのプロセスをフィールドに紐づけるかのように、選手たちに「会社を代表してハードワークを」と献身を求めてきた。他クラブに先んじてプレシーズンをスタートさせ、猛練習を重ねるのもディレーニー流である。 現体制初年度は、一枚岩の守りで複数のジャイアントキリングを招いて12チーム中10位で残留を決めた。戦術家のジョー・マドックをアシスタントコーチに据えた昨季は、9位とわずかに上昇した。 今季はこのグループに、フィジカリティ強化の専門家を招いた。ヘッドオブアスレティックパフォーマンスとなったアンドレ・クイン氏は、肉体を追い込む際のターゲット設定が絶妙だという。周りの選手がそう証言した。 安江はこうだ。 「22~3歳の選手と同じメニューをやらせてもらっているんですけど、毎年、パーソナルベスト(自己記録)が上がってきます。人間、やればできるんだなと。よく言わるように『Age is jusy number=年齢はただの数字』というマインドで、尻を叩かれながら、若手と一緒に成長できたと実感しています。いままでもやってきたつもりですけど、やっぱまだまだ足りなかったと40にしてまた気づかされました」 トレーニングの効果を増幅させるよう、ハード面の工夫もなされる。相模原市内のクラブハウスには、目玉焼きなどの間食を作るための調理スペースもできた。 鍛錬と栄養摂取の成果か、公式で身長176センチ、体重109キロのこの人も、心なしか腰回りが引き締まって胸板が分厚くなったような。 「いい感じですよ! 自分に合った捕食を摂れるので、でかくもなりますし、疲労回復も早まります。我々は(現体制の方針で)たくさん走る分、少なからず他チームと比べ身体が小さい部分がある。そのあたりを努力と(環境面の)バックアップで補填して、チームで勝っていく」 競争も望むところだ。 これまで宮里侑樹らとリードしてきたHOのポジション争いへ、今回から李承爀が参戦する。前三重ホンダヒートの25歳だ。今度のキャンプに先立ち、欧州遠征中の日本代表へ追加招集された。 このリクルートを、ディレーニーは「昨季、フロントローでは若い選手が頑張ってくれたが、経験者を入れたかった」と説明する。 石井晃ゼネラルマネージャーとともに、移籍市場をリサーチ。補強対象のポジションで、新天地を求める選手の動向を調べた。そこで白羽の矢がったのが、李であった。スクラムでHOの両脇を固めるPRにも、2季連続4強入りの横浜キヤノンイーグルスから安昌豪、津嘉山廉人を加えている。 元トヨタヴェルヴリッツで日本代表資格のあるCTB 、チャーリー・ローレンスを含める形で、ディレーニーは言う。 「日本人選手のレベルを上げたかった。狙っていたフロントローの3人と、チャーリー・ローレンスが来てくれた。層が厚くなった」 ’16年に神戸製鋼(現コベルコ神戸スティーラーズ)から移ってきた安江は、柔らかい表情のまま言う。 「楽しみですね。宮(里)もいい選手で、李も代表に入って頑張ってくれる。他にも若い選手がいる。僕は椅子(定位置)を渡すわけではなく、椅子取りゲームをして成長できたら。(自身の訴求ポイントは)経験。ゲームの綾、80分間のうちに数フェーズ、あるか、ないかという『このゲームがひっくり返る、持ち直せる』という状況を感じ取り、(同僚に)アウトプットする。また、その状況でどんなツールが必要なのかを表現する。皆を同じベクトルに載せ、勝ち切る…。それは、ゲームに出ていなくても求められることです」 指導陣、スコッドに手を加え、視野に入れるのは上位4傑から6傑に増えたプレーオフへの進出枠か。リーグワン1部の最年長でもある安江は、「寒くなってくると、(開幕間近だと)感じますよね。楽しみです」と目を細める。 (文:向 風見也)