奥平大兼「リアリティを追求するため常に触れていた」ガンアクションへのこだわり:インタビュー
俳優の奥平大兼が、映画『Cloud クラウド』(公開中)に出演。主人公である吉井良介(演・菅田将暉)に雇われたアルバイトの青年・佐野を演じる。国際的に高く評価される名匠・黒沢清氏が監督を務める映画『Cloud クラウド』。インターネットを経由する“実体のない”サービスを表す「Cloud」の名を冠した本作は、転売業で日銭を稼ぐ現代の若者を主人公にしたサスペンス・スリラー。奥平は、『MOTHER マザー』(20)で鮮烈なデビューを飾り、ドラマ『最高の教師 1年後 私は生徒に■された』(23/NTV)で存在感を放ち注目を集めた。インタビューでは、撮影時のエピソードから、黒沢監督とのやりとり、菅田との共演で刺激的だったことについて話を聞いた。 【写真】奥平大兼、撮り下ろしカット ■「なんだこの人は?」と感じさせることが重要なポイント ――奥平さんが演じる佐野の印象はいかがでした? 佐野がどういう人間なのか全くわからない、ミステリアスといった印象でした。 ――役の設定資料みたいなものはありましたか。 一応あったのですが、黒沢監督が資料は見なくていいとおっしゃっていたので、あえて見ませんでした。バックグラウンドをあまり意識せず、現場でわからないことがあったら監督に直接聞いたりしながら進めていきました。監督ご自身が脚本を書かれているので、わからないことは監督に直接確認するのが一番効率的だと思い、現場ではそのように進めていました。役を掴むまではちょっと時間かかりました。 ――背景が見えていない方がいいこともあって。 佐野の過去にはいろんなことがあると思いますが、ただそれが見えるのか、と言われたらちょっと難しいところなんです。後半は佐野のバックグラウンドが少し見えてくるところはありますが、観客に「なんだこの人は?」と感じさせることが、今回の役で重要なポイントだと考えました。 ――菅田将暉さんとご一緒するシーンが多いですが、共演されて感じたことは? 役者としての圧を感じました。佐野が勝手なことをして吉井に解雇されてしまうシーンがあるのですが、黒沢監督から「このシーンは菅田将暉を超えてほしい」とリクエストがありました。それはとても難しいリクエストで、しかもそのシーンが菅田さんの圧を一番感じました。今でも鮮明に覚えていて演じながら一番しびれました。菅田さんのまっすぐ何かを伝える姿勢、細かい芝居の技術など、身に染みて感じたシーンでした。 ――「超えてほしい」というのは、珍しいリクエストですよね。 はい。でも、そう言っていただけたのも嬉しかったです。そう言われた経験がなかったので、とにかく期待に応えなければという一心でした。 ――奥平さんは映画『Cloud クラウド』で注目してほしいポイントとはどんなところにありますか。 登場人物全員が狂気に満ちている点です。究極までいくと人間はあそこまでなれると思っていて、その怖さをエンターテインメントとして、昇華されているところが注目ポイントです。 ――笑っている人の裏には、泣いている人がいる。その両方をクローズアップしているようなところがすごく興味深い作品でした。 転売のシーンは特にそう感じます。吉井はそれで儲けているけど、本当にその物が欲しかった人たちは買えなくて悲しんでいる。そんな風に騙された人たちが、吉井に恨みを持つわけで、改めて転売とか良くないなと思います。 ――奥平さんは自分が欲しかったものが買えなかったりしたことで、悔しい思いをしたことはありますか。 物ではないのですが、最近悔しかったことはゲームで負けたことくらいです(笑)。また、そういった悔しいというとは少しズレるかもしれないのですが、「昔に生まれてみたかった」という悔しさはあります。今ももちろん楽しいのですが、僕が昔の面白さや楽しさを100%知ることはないと思います。誰かの話や映像でしかわからないので、体験できないことがちょっと悔しいです。 ――昔と一口に言っても幅広いですが、もしピンポイントで戻れるとしたらいつの時代がいいですか。 80年代、日本がバブルだった時代に行ってみたいです。漠然と楽しそうなイメージがあります。詳しいことは全然わからないし、大変なことももちろんあると思うのですが、昭和の時代には、今とは異なる多くの『楽しさ』があったと思うと、とても興味深いです。 ――奥平さんはクラシック音楽が好きだと聞いていますが、例えばクラシックの名曲が誕生した年代とか興味はいかがですか。 もちろんそこへの興味もあります。クラシックもそうですが、音楽で言ったらビートルズのライブを生で観てみたいですし、マイケル・ジャクソンのライブにも行ってみたかったです。 ■リアリティを追求するため、常に銃に触れていた ――本作では、[Alexandros]の曲「Boy Fearless」が、本作の予告編でインスパイアソングとして起用されています。聴いてみていかがでしたか。 「Boy Fearless」を聴いて、映画の後半とのマッチ度がすごいと感じました。『赤羽骨子のボディガード』のときも感じたのですが、音楽は映画やドラマを観る人の気持ちをより盛り上げてくれるので、主題歌や挿入歌は、映像作品においてすごく重要な要素だと思います。音は言葉以上に広がりがあって、想像力を掻き立てるので、音楽の持つ力をより強く感じます。 ――ちなみに[Alexandros]の印象は? 僕が小学生ぐらいの頃にとても流行っていたので、その時期に僕は[Alexandros]さんを知ったのですが、とても独特な色、個性があるアーティストさんだと感じました。僕の中で平成は個性的なバンドが多かった印象で、[Alexandros]さんは、その中でも一際印象的なバンドというイメージがあります。 ――音楽への興味が増した瞬間は? 僕の友達がバンドをやっていて、楽曲制作をしているところやライブをやっているところを間近で見ていました。その友人はニルヴァーナやオアシスが好きなんですけど、ニルヴァーナ風のコード進行を使って曲を作っているのを見て、音楽って深掘りしていくととても面白いなと感じました。これまではただ聴くだけでしたが、誰から影響を受けたのか、などルーツを辿っていくのもすごく面白くて。 ――例えば映画を観るときも、役者さんや監督のルーツを辿ることもありますか。 映画に関しては映像やストーリーを重視して観ることが多いです。ルーツとかはあまり気にしていないかも知れません。細かいところでこういう描き方をしているとか、いろいろあるのですが、僕は画の構図や中身で観ていて、作品の中に登場する物とかにも興味がいくこともあります。 ――では、本作で映像演出としてのお気に入りポイントはありますか。 本作の性質的に暗いシーンが多いのですが、例えば人が立っていて半分は真っ暗だけど、半分だけちょっと明かりが照らされて、ちょっと見えるような描写はグッときます。人や役によって画力(えぢから)が強くなると言いますか、これはどういう意味があるのかなど、考えさせられるものが違ってくるので、そういうところがすごく面白いです。この作品で言うと銃撃戦とかで見られる真正面からのカットもインパクトがあると思いました。 ――ガンアクションのシーンはかなり見どころですよね。 佐野はおそらく過去に銃を使ったことがあるんじゃないかと思ったので、撃鉄を起こす動作など、ちょっと慣れている感じを出すために家ではずっとモデルガンに触れていました。撮影用の銃なので、撃ったときの反動とかも自分でリアクションしなければいけないので、リアリティを追求するため、常に銃に触れていました。 ――最後に映画『Cloud クラウド』を楽しみにされている方へメッセージをお願いします。 人間の持つ怖さというものが出ていて、登場人物はみんな狂っているのですが、単に狂気的なだけでなく、そこに深みがある点が非常に魅力的です。狂気的な作品だけど、ワクワクドキドキするというのが、この作品の見どころだと思っているので、皆さんにはシンプルに楽しんでほしいです。おそらく観たときに「この役って何?」とか「これってどういうこと?」とか疑問を感じると思うのですが、そういった背景とか考えてみるのもすごく楽しいですし、逆に深いことは考えず、純粋に映画を楽しんでもらうのもありなので、ぜひ劇場でご覧ください。 (おわり)