「上流階級の風習」だった成人式 やがて庶民に拡大し、「敗戦により希望を失った若者を励ますイベント」として復活
1月13日(月)、各地で20歳を祝う成人式が行われた。かつては「荒れる成人式」が話題になったが、近年はあまり見られない。時代とともに変わっている成人式の歴史と、世界の成人式について見ていこう。 ■敗戦で希望を失った若者のために、埼玉県の青年団が「成人式」を開始 日本の成人式は1月の第2月曜日、対象年齢は18歳。1999年までは1月15日に固定され、対象年齢は20歳だったが、これとて戦後に始まる制度で、実施されるのは各自治体主催の式典のみというのが実情だった。 それより前はどうかと言えば、遠く奈良時代の公家社会には元服という、中国の風習に倣った成人儀式があった。対象年齢は12~16歳までと幅があり、これを境に髪型や被り物、服装、呼び名を改めることから、男子の場合は冠礼、女子の場合は裳着(もぎ)、髪上げとも呼ばれた。 下々の人間が上流階級の風習に憧れるのはいつの世も同じで、時代が下ると、元服の風習は公家から武家、武家から豪商・豪農、そこからさらに一般庶民へと拡大した。 本場の中国では封建社会の因習として20世紀には廃れ、日本でも明治維新を境にいったん消滅するが、戦後の昭和21年(1946)、日本国全体が敗戦による虚脱感から明日への希望さえ見いだせずにいた情況に鑑み、埼玉県の蕨町青年団が中心となって若者たちを励まそうと、「成年式」というイベントを開催。 これが大きな評判を呼んだことから国が動き、3年後の昭和24年より1月15日に各自治体主催の成人式が行なわれるようになった。 ■ライオン狩りやバンジージャンプ、サメ狩りが課される世界の成人式 なお、公的機関が主催する成人式は世界では珍しく、日本以外では例を見ないかもしれない。 連邦国家のアメリカの場合、州によって成人年齢は異なるが、自動車免許を取得できるのが16歳、選挙権が18歳、飲酒が21歳からという点は共通しており、個人主義の国らしく、女子の16歳の誕生日を各家庭で盛大に祝う風習がある。 同じく先進国からイギリスを例に取れば、スコットランドが成人年齢を16歳としているのを除けば、他はみな18歳を成人とし、飲酒・喫煙・選挙権もすべて18歳から認められる。パーティーを開くにしてもやはり家庭単位で、親から鍵のネックレスチャームや鍵マークのカード、花火(18歳未満は購入禁止)などが贈られるのが一般的である。 だが、世界にはこれらアットホームな雰囲気とは真逆な成人式も少なくない。東アフリカ・タンザニアのマサイ族では14~15歳の少年を1人でライオン狩りに挑ませる儀式が健在であり、これをクリアしなければ、結婚や村の会議への参加を許されず、いつまでも大人として認められない。 同じく東アフリカでも、エチオピアのバンナ族の成人儀式はもう少し難度が低く、身体中に牛糞を塗りたくった状態で、10~30ほど並べられた牛の背を飛び移り、落ちずに4往復できれば成人と認められる。 成人式に厳しい試練を課す風習は南太平洋のバヌアツでも健在で、今や世界中に知られるバンジージャンプ発祥の地であるだけに、ここでは対象年齢の男子にバンジージャンプが課せられる。試練でなければ意味がないため、安全への配慮は最低限で、使用されるのはゴムではなく、伸縮性のない蔦を編んだだけのもの。そのため現在でも死亡例が皆無ではない。 以上のほか、南太平洋のパプアニューギニアではサメ狩り、南米ブラジルの先住民族の間では毒アリを集めた袋に手を突っ込み、24時間の激痛に耐える儀式が健在と聞く。大人として生きていくに必要な勇気や運を試す儀式であれば、これくらい厳しくあるのが、成人儀式の本来あるべき姿なのかもしれない。
島崎 晋