【内匠宏幸】コーチに刺激を与えた岡田彰布の直接指導、鳥谷敬を教えた20年前と違う光景
交流戦が終了。リーグ戦再開(6月21日)に向け、練習日となった19日。阪神監督の岡田彰布の動きが大きく報道された。グラウンドで森下を個別指導。それも長い時間にわたってだ。どこのスポーツ紙も「異例」の光景と報じた。岡田が1選手に個人レッスンすることは過去、ほとんどなかった。だから確かに珍しい動きだった。 【写真】コーチが見守る中、森下に直接打撃指導する岡田監督 同じ右打者だから、感じるところがあったのだ。「右バッターの最高の打球は、インコースの球をファウルにせず、三塁線の中にライナーで打ち返す。これがオレの考える理想のバッティングよ」。指導者になっても、この理想はブレることはない。重要なのはリストワーク。ファウルになるか、フェアなのかは、リストワークにかかっている。 1年半、森下を見てきて、リストを使えてないことに気づいていた。それをジッと見てきたけど、もう辛抱できなかった。コーチがやらないなら、オレがやる-。 20年前、同じような出来事があった。2004年、監督1年目の5月だった。開幕の巨人戦を終え、横浜(横浜スタジアム)との2カード目。岡田と新人の鳥谷は試合前の練習中、姿を消した。向かったのは球場に隣接する室内練習場だった。 僕は現場でその動きを追っている。2人のあとをついていこうとした当時の打撃コーチ、金森と平塚(2人制)は、岡田にグラウンドに戻された。始まった2人だけの打撃練習。鳥谷は開幕戦でいきなりプロの壁にぶち当たっていた。プロの球の速さ、変化球のキレ。(プロ初安打は記録したが)三振に終わることが増え、岡田はここがポイントと、個人レッスンに踏み切った。 コーチが試合前やマスコミの前で、個人的に指導することを、岡田は極端に嫌う。教えているということは、調子が悪いということを知らせることになる。「だから、コーチするなら、見えないところでやらなアカンのよ」と、細かいところまで神経を注いでいた。 今回の森下への個人指導は、マスコミが見ている中でのものだった。岡田の方針とは違ったが、これは森下に対しての指導と同時に、水口、今岡の担当コーチに向けたものだった…と僕は理解している。かつて金森、平塚に冷たい対応を取ったが、岡田は2コーチのコーチングが物足りなかった。だから自ら、鳥谷をコーチした。そういうストーリーがあった。 岡田が森下に実技指導している時、ヘッドコーチの平田と水口が脇にいた。20年前との違いはあったけど、他を寄せ付けずではなく、指導の中身をコーチにもさらけ出した。 すぐに結果が出るほど、甘くはない。森下がどう岡田の技術論を取り入れるかにもよるが、即効性ではなく、しばらくは様子を見る必要があるのだろう。いずれにしても今回の岡田の直接行動は選手を、そしてコーチをピクつかせたようである。【内匠宏幸】(敬称略)