電話1本で会社を辞める「退職代行」の落とし穴を社労士&弁護士が解説…業者に聞いた「トラブルへの対応」
「もう無理です! こんな会社、辞めてやる!」 怒鳴りつけ、内ポケットから辞表をたたきつける――そんな“退職シーン”は、過去のものかもしれない。28歳くらいまでの若者「Z世代」を中心に、退職代行で電撃退社をする事例が相次いでいる。とくにゴールデンウイーク明けに急増し、話題となった。 【写真】退職代行モームリの谷本慎二代表 「退職代行を安易に使う人は多い印象です」と話すのは、さまざまな企業の声を聞いてきた社労士、石川弘子氏だ。 「ある転職サイトの調査では、退職代行を利用したのは、転職者全体の2%に及び、もっとも多いのが20代です。私の担当する企業でも、けっして人間関係が悪いなどの事由がないのに、『業者の電話1本で会社を辞められた』という報告が聞こえてきます」 一方、退職代行業者の業務には法律的に限度があるという。労務紛争に詳しい今井俊裕弁護士が解説する。 「基本的に、依頼者に代わって退社の意思を伝えるだけなら、法的に問題はありません。ただし、会社側が反発し、代行業者ともめた場合、報酬を得る目的で法的紛争について交渉する業務は、日本では弁護士などにしか原則、認められていません。代行業者の従業員が、会社側と労働に関する法的問題について交渉業務をすると、『非弁行為』に該当し、違法になります」 雇用形態によっては、すんなりと辞めにくい場合もある。 「雇用契約に期間の定めがない方は、基本的に退職の意思を示してから2週間後に契約は終了します。他方、非正規雇用など、契約期間を合意して雇用契約していると、契約期間途中に解約するには、やむを得ない事由が必要です」 残っている有給休暇日数の認識に食い違いがあれば、その交渉も必要になる。こうした“退職意思の伝言役”にはできない、法的問題の交渉業務がかなり予想されるという。 「『代行業者に頼めば、すぐに退職できて楽ちんだ』と甘い認識で依頼すると、もめごとに発展することもあります。代行サービスは、退職にあたって特別法的問題がなく、『辞められさえすれば御の字』という方ならいいかもしれません。ブラック企業を退職するために、泣く泣く利用するケースもあるでしょうが、それ相応のリスクがあることを理解して依頼すべきです」 ■「弁護士会から “事情聴取” も」代行業者代表を直撃! 盛り上がりを見せる退職代行業界だが、現場の雰囲気はいかに。退職代行モームリ代表の谷本慎二氏に話を聞いた。サービス開始からわずか2年で、累計1万2000人ほどがこのサービスで退職したという。 ――利用者の属性は? 「20~30代が全体の6割ほど。『有給が使えない』『サービス残業が多い』など、労務関係がきっかけの依頼が多いです。『気が弱く、退職を言いだしづらい』という方もいます」 ――非弁行為への対応は? 「退職の通知は法律上、まったく問題ありません。また、当社は労働環境改善組合という、所属する会社に関係なく労働者が集まった合同組合に加盟しており、当社社員も組合員です。依頼者も組合に加盟すれば、団体交渉権を行使し、依頼者の会社との退職交渉が可能になるんです」 ――これまでに法的なトラブルはありましたか? 「2023年に一度、弁護士会に『非弁行為ではないのか』という“タレコミ”があったようですが、事業内容を弁護士会にお伝えしました。そうしたら、やはり『違法の可能性は低い』とご判断をいただきました。違法の可能性が出てきたら通達すると言われましたが、その後、なんの連絡もありません。堂々とやっています」 ――有期雇用で即日、辞めづらい方もいる? 「いままで、有期雇用でやむを得ない理由がない、という方はほぼいらっしゃいませんでしたね。それに、当社で対応できない事案には、ほかの信頼できる弁護士事務所を紹介することもありますよ」 ――同じサービスなのに? 「はい。弁護士事務所とウチとでは、“ものが違う”と思っているので。やはり、弁護士事務所とウチでは、対応できる交渉ごとには大きな差がありますからね。僕は単に、日本の職場環境をよくしたいだけなんです」 代表の熱意が、日本を働きやすい国にしてくれることを願いたい。
週刊FLASH 2024年7月16日号