世界選手権金4つの女子レスリングはいかにしてパワハラ問題を乗り越えV字回復したのか?
ハンガリー・ブダペストで開催されていた2018年のレスリング世界選手権が終了した。強化本部長だった栄和人氏のパワハラ問題で大きく揺れた女子は、50kg級の須崎優衣(早稲田大)、53kg級の奥野春菜(至学館大)、55kg級の向田真優(至学館大)、59kg級の川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)の4人が優勝、他にも銀1、銅2のメダルを獲得した。 大会前に目標としていた「金メダル3個以上、全階級メダル」のうち全階級でのメダル獲得はならなかったものの、昨年の世界選手権での「金4、銀1、銅1」よりもメダル数は増えた。史上初の金メダルゼロに終わったアジア大会以後、2020年東京五輪へ向けて急務と言われた立て直しには成功、V字回復したと言えるだろう。 アジア大会と世界選手権では何が大きく違ったのか? 笹山秀雄・女子監督は「チーム力を重視したこと」と「練習量の確保」の2点をあげている。 日本の女子レスリング史上初の金メダルゼロに終わったアジア大会の後、「何が原因だったのか」について、笹山監督ら女子指導陣は、協議を繰り返し、代表だけでなく合宿に参加してきた選手たちへのヒアリングを丁寧に行った。 その過程で見えてきたのは、2月に発覚したパワハラ騒動の混乱にもかかわらず優勝した群馬・高崎市での女子国別対抗団体戦(ワールドカップ)に比べて、チームの雰囲気が大きく異なっていたことがある。 「ワールドカップは、選手もコーチもみんなが一丸となって、乗り切ろう、頑張ろうと力を合わせて優勝できました。あのときの力を出せた状態がアジア大会のときはなかったんです。出場選手それぞれが、めいめい勝手に動き、一人一人の負担が大きくなってしまっていた。特に川井(梨紗子)選手には大きな負担になってしまった。ワールドカップは団体戦で、アジア大会は、個人戦だから『そういうものかもしれない』と考えたこともありましたが、やはりチーム力は重要なのだと強く思いました。特に勝って当たり前と思われる女子の場合、みんなで盛り上がることによる効果が大きい。そのため世界選手権へ向け、練習のときから意識して声を出してチーム力を高めていこうということになりました」 笹山監督は、そう振り返った。 世界選手権までの最終合宿では、長らく日本女子のムードメーカー的存在でもあった五輪3連覇の吉田沙保里にも参加してもらい、練習の最後には、円陣を組んで全員でかけ声をあげた。これは、報道向けの練習公開時にも行われたが、ときに笑い声を上げながら、まるで新しいゲームを楽しむかのような雰囲気だったのが印象に残っている。今年に入って続いていた沈滞ムードから脱して、以前の元気の良さを取り戻しつつあるようにも見えた。