地域密着の理念崩壊? JRダイヤ改正で減便・減車・無人化、もはやホンネは「在来線に乗らないで」なのか?
民鉄・第三セクターでは利用者増加も
極端な例だけ取り上げたのではないかとの疑問があるかもしれないが、研究者の報告でも同様の結果が示されている。 例えば大津賀柚花氏・中川大氏(富山大学)は学会報告(土木計画学研究・講演集,2022年6月)で、JR・中小民鉄・第三セクターの148区間について網羅的に分析している。やはりJRでは輸送密度が低下している区間が多いのに対して、中小民鉄・第三セクターでは増加している区間が多いと指摘している。 参考までに民鉄・第三セクターの例も挙げる。上図は福井県の福井鉄道(民鉄)とえちぜん鉄道(第三セクター)である。なおえちぜん鉄道は、前身の京福電鉄が連続大事故を起こして撤退した後を受けて2003(平成15)年に発足しているため、乗車人員の変化率は2010年からとしている。いずれにしても沿線人口・高校生・従業者数が減っているのに対して乗車人員は伸びており、JR各社とは様相が異なる。 筆者の以前の記事で指摘したように、えちぜん鉄道では駅トイレの整備に力を入れるなど、日常の利用者を大切にするコンセプトのもとでコロナ以前よりも利用者増加を達成している。福井鉄道は、えちぜん鉄道との共同プロジェクトで相互直通運転を実現し乗車人員が延びている。 これに対して最近のJRは、ダイヤ改正のたびに ・減便 ・減車 ・無人化 を繰り返し、トイレや待合室から、さらには窓口の廃止まで進め 「在来線にはできるだけ乗らないでくれ」 といわんばかりのサービス切り捨てを強行している。JR発足時の「地域密着」の理念は完全に破綻した形だ。
公共交通は誰のためのものか
別の側面として交通政策の歪み、あるいは放置の背景がある。上図は北海道の交通ネットワークを示す。 黒はすでに廃止された旧国鉄とJRの鉄道路線、オレンジはJR北海道が直ちに廃止とは明言していないものの、自社では維持できないとリストアップした線区である(ピンク部分は、廃止決定だがバス転換の調整遅れで鉄道の運行が続いている部分)。さらに背景の太い緑線は、既存あるいは計画中の高規格自動車道である。 あたかも、廃止あるいはその可能性が高い鉄道路線をなぞるように、高規格自動車道が作られている。一方で、道路が整備されたからといって路線バスが便利になったわけでもない。路線バスもこの10~20年で急速に縮小している。高齢者の免許返納が奨励されたり、若い人でも経済的要因などで 「車ばなれ」 が全国的に起きたりしている。公共交通を企業の採算性のみで運営し、結果として人々の移動の選択肢が奪われている現状では、地域の衰退がますます加速する。 しばしば 「民間企業なのだから不採算路線の廃止はやむをえない」 という意見が見られる。それでは採算性が高い大都市圏のJRは利用者にとって優れたサービスだろうか。詰め込み輸送は経営の観点での「コストパフォーマンス」がよいだけで、利用者にとって何も歓迎すべき状態ではない。 サービス縮小はローカル線の問題と思っているうちに、矛先は大都市圏の利用者にも迫っている。最近では ・JR東日本の「みどりの窓口」廃止 ・京葉線の快速廃止騒動 ・2025年から首都圏の主要路線でもワンマン運転 が予定されている。公共交通は“誰のためのものか”改めて考えてみたい。
上岡直見(交通専門家)