陸上七種競技日本記録保持者の中田有紀 愛知で陸上指導開始
世界大会出場を目指しつつ後進育成に力注ぐ決断
陸上七種競技の日本記録を保持する現役選手・中田有紀さん=日本保育サービス=(39)が、サッカーJ1・名古屋グランパスが4月に開校した小学生向け陸上スクール(拠点=愛知県豊田市)で、指導を始めた。トップアスリートとして五輪などの世界大会出場を目指しつつ、後進育成にも力を注ぐ決断をした背景には、世界大会出場の際、自らの中でわき上がった特別な思いがあった。
04年日本選手権での自己ベストは今も日本記録
中田さんは、京都府出身。100メートルハードルや走高跳、砲丸投、200メートル、走幅跳、やり投げ、800メートルの各競技を2日間かけて行い、記録からはじき出す得点を競う七種競技で、日本選手権9連覇。2004年のアテネ五輪や07年の世界陸上(大阪)などにも出場した。04年の日本選手権でマークした自己ベストの5962点は、今も同競技の日本記録として残る。 2000年に初めて日本記録をマークした以降は、自身の記録を塗り替えるなど常に選手としてトップを走り続けた。しかし、07年の世界陸上で、ある考えが浮かぶ。 世界を舞台にしたランキングとしては、05年の世界陸上(ヘルシンキ)が20位で自己最高。07年の世界陸上大阪大会は23位と若干下げたが「すごい応援の中で戦った」という強烈な印象が残っているという。世界の大舞台で得た充実感の中で芽生えたのは「スポーツの魅力をいろんな人に伝えたい」という思い。 それがきっかけで現役選手として活動を続けつつ、後進育成にも励んでいくことを決意。08年から小学生に陸上競技を楽しんでもらうイベント「キッズアスレチックスフェスティバル」をプロデュースし、ほぼ毎年1回のペースで開催。子ども向け陸上教室の講師なども行うようになった。
お世話になった土地なので恩返しの意味も込めて
今回の陸上スクールは、2020年の東京五輪・パラリンピックを意識し、大会前はもちろん閉幕後もスポーツ文化が地域に根づくように、地域貢献の一環として立ち上がった。サッカー経験の有無は関係なく、「走る」「投げる」「跳ぶ」の基本を身につけたい小学生を受け入れる。 豊田市での陸上講師を引き受けたのは、母校の中京大学豊田キャンパスの存在。「お世話になった土地なので、恩返しの意味も込めて」と話した。 開校初日の6日は、トヨタスポーツセンター陸上競技場(同市保見町)で、走りの基本動作をスクール生や体験参加児童ら7人が、中田さんから学んだ。「速く走れるようになりたい」と自ら入校を希望した安井勇貴君(小6)は「これまで聞いたことがない走り方を教わったので、これからも楽しみ」と、目を輝かせた。
七種競技で身につけた前向きな思考で突き進む
スクールについて中田さんは「速く走る方法というより、陸上をベースに物事への取り組み方や考え方を身につけてもらえたらうれしい。夢は世界を舞台に戦う選手が出るような、クラブチームにしていきたい」と希望を語った。 8月のリオ五輪に向けて、記録会や予選会出場も欠かさない。「失敗したからといって落ち込んでいられない」と、七種競技で身につけた前向きな思考で、自身の夢と子どもたちの夢に向かって、突き進む。 (斉藤理/MOTIVA)