世界選手権SP首位の羽生が見せたミスを消す修正力
その表情は気迫に満ち溢れていた。 「みたかあ!」。次の瞬間、唇は、確かにそう動いた。 今季世界歴代最高得点を塗り替え、GPファイナルを制した王者の誇りか。それとも、公式練習で曲をかけている選手を優先させるという“暗黙のルール”を2度も破って、羽生の進路を邪魔して、あわや激突しそうになったデニス・デンへの呼びかけだったのか。 現地時間30日にアメリカ・ボストンで開幕したフィギュアスケートの世界選手権、男子ショートプログラムで、羽生結弦(21歳、ANA)が、首位でスタートを切った。 「ハッキリ言って練習でもうまくいっていなかった。苦しい部分も結構あって、いろんな葛藤があった」という羽生は、冒頭の4回転サルコウ、続く、4回転トウループ+3回転トウループのコンビネーションジャンプ、そして、3回転アクセルと、4つのジャンプをすべて成功させ、しかも、4回転サルコウと3回転アクセルの2つのジャンプで、出来栄え点で満点の「3.00」を獲得した。特に3回転アクセルは、9人のジャッジ全員が+3の評価をしていた。自らが持つ世界歴代最高の110.95に0.39点と迫る110.56点をマークしての首位発進である。 「自分の中では、完璧とはいえませんでしたが、最後まで気持ちよく滑れたと思う。4回転トウループの質やスピード感、レベルが取れなかったことなど悔しいところがある。でも、まずはショートをまとめられたこと。また一歩前進できたかなと思う」 試合後、羽生は、そんなコメントを口にした。 これだけの得点を得ておきながら、どこが完璧ではなかったのか。 実は、4回転トウループ+3回点トウループのコンビネーションジャンプで、わかりにくいミスがあり、失敗しかけていたという。元全日本2位、アジア大会銅メダルの実績を持ち、現在はインストラクターとして後身の指導にあたっている中庭健介氏が、こう指摘する。 「4回転トウループのランディングで詰まっていたんです。腰が少し沈みました。本来ならば、次のジャンプが2回転トウループになってもおかしくなかったのですが、見事に立て直して、次の3回転トウループを完璧に成功させ、コンビネーションジャンプをまとめて見せました。凄い修正能力です。羽生選手のさらなる成長部分ではないでしょうか」