「アクセルとブレーキに似ている」…いまだ将棋界のトップを走る羽生善治が「あえて負けを許容」するのは、勝つための「秘策」だった
「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第36回 『「知ってもどうにもならない…」ノーベル賞科学者・山中伸弥が語る、遺伝子治療の残酷すぎる「現実」』より続く
「失敗してもいいや」
羽生 実験を進めていくにしても、ほぼ無数と言っていいくらいたくさんのアイデアや方法、スタイルがありますね。でも、なんとなくこれは可能性がありそうだ、これはダメそうだと見極めていく。それは極めて感覚的というか主観的な判断ですよね。 山中 そうですね。 羽生 そういうところに、実はいちばんその人の個性というかスタイルが出るのではないかと思うんです。山中先生は、ご自分の個性、スタイルについて、どんなふうにお考えですか。 山中 僕は先ほどの3つのパターンのどれでもいいと思うんです。他の人がほとんど考えていないような新しいことであれば、「これは失敗してもいいや」という感覚でやってみることがすごく大切だと思います。
失敗しても「ナイストライ」
山中 他の人がすでにやっていることだったら、やってもあまり意味がない。それは無駄な気がします。他の人がやっていないのなら、どんなことであれ、やる価値はあります。やっても成功する保証はまったくありません。むしろ失敗することのほうが多いでしょう。でも僕の経験で言えば、失敗してもやりがいはありました。「ナイストライだった」という感じです。その繰り返しでいいんじゃないかな。 羽生 将棋の対局でも、それはよくあります。慣れ親しんでない、ちょっと目新しいことをやってみると、ほぼ不利になるし、ほぼ負けますね。本当にほぼそうなります(笑)。でも、ある程度それを許容していかなければいけないと思っているんですね。仕方がないんじゃないか、と。 もちろん、そこできれいさっぱり割り切れて「これでよかった」とまでは思えません。でもやっぱり、そうした失敗も必要なんだと思うことが少なくありません。そういう姿勢は忘れずにやっていけたらいいなと思っています。 もう一つ言えるのは、実戦でやってみるプロセスの中に学べること、吸収できることがある、ということです。公式戦で時間に追われているとき、局面に対峙するときが、やはりいちばん勉強になります。「待った」ができない状況の中で、集中力を高めて深く考えています。つまりプレッシャーがかかるときにこそ能力が花開く、と言っていい。