『メタルギア ソリッド デルタ』国内初インタビュー。原作の感動そのものを新世代へ届ける。『MGS』シリーズの今後も訊いた【TGS2024】
2024年9月26日~29日にかけて開催された東京ゲームショウ2024(TGS2024/26日、27日はビジネスデイ)にて、『メタルギア ソリッド デルタ: スネークイーター』(以下、『MGSΔ』)の国内初の試遊出展が行われた。 【記事の画像(11枚)を見る】 2004年に発売され、いまなお色褪せないステルスアクションの名作『メタルギア ソリッド 3 スネークイーター』(以下、『MGS3』)のリメイク版である本作。TGS2024のなかでも大きな注目を集めており、試遊コーナーの賑わいかたも非常に盛況なものとなっていた。 そんな『MGSΔ』制作プロデューサーの岡村憲明氏、クリエイティブプロデューサーの是角有二氏にインタビューを実施。開発経緯や状況について詳しく訊いたところ、その回答からは『MGS3』とそのファンに向けた並々ならぬリスペクトが感じられた。 なお、本作の開発陣インタビューは、日本ではこれが初の機会となる。どのような思いで制作が始まったのか、『MGS』シリーズの今後はどうなるのかなど、語られたその内容にぜひ刮目いただきたい。 岡村憲明 氏(おかむら のりあき): KONAMI所属『メタルギア ソリッド デルタ: スネークイーター』制作プロデューサー。(文中は岡村) 是角有二 氏(これかど ゆうじ): KONAMI所属『メタルギア ソリッド デルタ: スネークイーター』クリエイティブプロデューサー。原作版『MGS3』開発時は敵兵AIプログラムを担っていた。(文中は是角) ゲームデザインはそのままにクオリティーをアップ ――改めて、『MGSΔ』企画立ち上げについてから伺わせてください。リメイクを決断するには相当な覚悟が必要だったのではないですか。: 岡村 : 「『MGS』シリーズをもう一度展開してほしい」という声は以前からいただいていて、我々としてもその声にお応えしたい気持ちはあったのですが、オリジナルスタッフの多くがいない状態でやるべきなのだろうか、やれるのだろうかという葛藤があり、ずっと制作に踏み切れなかったんです。 ただ、そうしているうちに「『MGS』シリーズをプレイしたことがない」という人や、タイトル自体を知らない、という声を聞くことも多くなってきました。シリーズタイトルも出ないなかでそういう方が増えてくるのはしかたのないことではあるのですが、これはまずいと状況だと思いました。そういった状況をなんとかしたいと『MGSΔ』の企画がスタートしました。 まず、“ユーザーの皆さん、『MGS』ファンが望んでいるものは何か?”を考えたとき、新しいディレクターが独自の解釈を加えて別の『MGS』を作るのはやっぱり違うだろうと思ったんです。同時に、昨今のゲームに触れている人たちにも素直に受け入れられるものを作らなければいけない。 そこで、必要最低限の部分を高品質化し、それ以外の部分は変えずにオリジナル版の体験をできるだけ忠実に再現するという方針で進めていきました。 是角: 当初はグラフィックのアップデートだけを想定していました。背景やキャラクターモデルさえキレイにすれば、後はそのままにしてしまおうと。実際、最初はそのようにアニメーションなどはそのままで一度プロトタイプを作ってみたんです。 ですが、どうしても違和感が出てしまいました。せっかくグラフィックがよくなったのに、システム部分や視点、キャラクターのアニメーションなどでも現在のハード性能に合わせて進化させたものでないと、気持ちよくプレイできないのではないかと。その懸念はあったのですが、作り始めて確信しました。 結果として、ほぼすべてのアニメーションを作り変え、随所をアップデートしています。たとえばナイフのモーションなどは、オリジナル版の制作当時に受けた講習の動画データを掘り出してきて、改めて正しい知識を見ながら、現在の技術で表現しています。 ――アップデートするポイントはどのように判断しているのでしょうか。: 是角: 私も原作の開発時に在籍していたので、オリジナル版で想定していたものの実現できなかったものは積極的に取り入れるようにしています。当時は技術の限界があったり、ハードウェアのスペックを考慮しなければいけなかったりと、たくさんの制限がありました。 そのため共通のモーションを使用したうえで一部だけ変えたり、左右対称にしたりなど、メモリー容量を食わない細かな工夫をしながらの制作だったんです。ただ、その試行錯誤した部分が、いまこれからプレイするユーザーさんからすると違和感を感じてしまう要因になってしまう可能性があるので、そういった部分も調整しています。 ――音声面に関してはオリジナル版を制作した際に録音したものを使用しているとのことでしたが、20年前の音声をそのまま使用できることに驚きました。: 岡村: オリジナル版のころからあまり劣化しない状態で録音できていたので、音質的にはいまでも通用するものになっています。BGMなどに関してはチャンネル数が変わっているので、そちらにあわせて高品質化しています。 より楽しく、より遊びやすくなる新要素 ――新たに追加された要素についてもお聞かせください。: 是角: 大きな要素は、3人称視点の‟NEW STYLE(ニュースタイル)”と、上から見下ろす俯瞰カメラでオリジナル版の操作性に近い‟LEGACY STYLE(レガシースタイル)”のふたつを選択できる点です。 ※詳しくはファミ通.com関連記事をチェック! 是角: ふたつの視点はプレイ中にいつでも切り替えられる仕様にする予定でしたが、それはやめました。 ――なぜ? 是角 :視点によって難度がガラッと変わってしまうんですよ。“ニュースタイル”は直線的な視野が広がるうえに、スネークを動かしながら銃を撃てるため、我々が想定している以上に難度が低くなり過ぎてしまいました。 しかし、“ニュースタイル”に合わせて調整すると、今度は“レガシースタイル”が非常に難しくなり過ぎてしまう。そこで思い切ってプレイスタイルをふたつに分ける形にしました。 “レガシースタイル”はオリジナル版に近い難易度にしており、“ニュースタイル”に関してはゼロから調整を行っています。 TPSのような“ニュースタイル”の視点。 ――キャラクターのビジュアルもよりリアルになっています。最近では、リメイクの際に実在の俳優を登用し、3Dスキャンしてキャラクターモデルを作成するという例もありますが、本作ではどうなのでしょうか?: 是角: 実在の方は使用せず、キャラクターモデルはゼロから作っています。やっぱり、オリジナル版からデザインを崩すことはできないので。キャラクターの印象を変えないまま、いかに現代のグラフィックレベルに仕上げるかがたいへんでしたね。 是角: ハードウェアの進化にともない細かな表情の変化が表現できるようになったので、表情のアニメーションについては、フェイシャルキャプチャーから表情の動きを読み取ったデータを生かして作成しています。 ※フェイシャルキャプチャー……対象人物の顔を特殊なカメラで撮影し、取得した詳細なデータからキャラクターモデルや表情のアニメーションを作成する技術。 ――ゲーム中のムービーに関して言うと、構図やカメラワークがオリジナル版を徹底再現していることに驚きました。: 是角: ファンの方が持っているオリジナル版のイメージを崩さず、必要最低限変えなければならない箇所を模索するなかで、ムービーシーンについても「カメラワークや画角はそのままで大丈夫なのか、多少は調整が必要になるのではないか」と不安に思ったこともありました。 ですが、作ってみるとまったく問題なく、そのまま落とし込んでも非常に見ごたえがあるものに仕上がったんです。オリジナル版のカットシーンの出来映えのすごさを改めて感じましたね。 ケロタンに加えてガーコも登場 ――『MGS3』にあったアイテムなどの小ネタは、本作にもあるのでしょうか?: 是角: オリジナル版にあったギミックやイースターエッグ、 『週刊ファミ通』やカロリーメイトなどのアイテムなどは、ほとんどそのまま入れる予定です。また今回はケロタンに加えて、新たにガーコをマップ各所に配置しました。 ガーコは環境に合わせて擬態していて、ちょっとだけ見つけにくくなっています。ケロタンはオリジナル版と同じ場所に設置していますが、ガーコは新しい気持ちで探してもらえればと思います。すべて見つけたときのご褒美もお楽しみに。 また、カムフラージュが簡単に切り替えられる“クイック機能”を追加しました。カムフラージュは周囲の環境に合わせて切り替えるだけでなく、便利な機能やちょっとおもしろい小ネタがたくさんあるので、新しく手に入れたときにサッと試着して楽しめるようにしています。 『メタルギア』を未来に残すための使命 ――気になる発売時期はいつごろになりそうでしょう?: 岡村: ……(無言)。 是角: ……(無言)。 ――まだ言えなさそうですね(笑)。では、「いつごろには発売日を発表できそう」という見込みは? 岡村: なかなか難しい質問なのですが(笑)、じつはすでに最後まで遊べる状況にはなっていて、いまから何年も掛かることはないと想定しています。 ですが、本作の開発でもっとも重視しているのはファンの方々を裏切らないということ。きちんと仕上げて、きっちりと確定できる状態になってから発表したいと考えています。 ただ、あまりに何もお伝えしないでユーザーさんに不安を与えてしまわないよう、公式配信“METAL GEAR – PRODUCTION HOTLINE”にてさまざまな経緯や事情も含めてお伝えさせていただいています。 ――開発の進捗をパーセンテージで表すと、どのくらいになるのでしょうか?: 是角: ゲーム開発は一定速度で進むわけではないので、表現が難しいのですが……ゴールは見えている段階で、まだ足りない部分を追加しているという状況です。 ――今後、歴代シリーズのリメイクの制作はありえるのでしょうか? 岡村 : ひとまず本作を作り終えてから考えていくべきだとは思っています。たとえば、ここから初代『メタルギア ソリッド』や『メタルギア 1・2』などを新しくリメイク制作するとなると、レベルデザインの再設計を含め『MGSΔ』と同じ方法論では通用しない部分どうしても出てきます。そのぶん新しく作らざるを得ない部分が多くなります。 なので、自分たちがつぎの『メタルギア』シリーズを作ってもよいのか、どこまでやっていいのか。みなさんに『MGSΔ』を遊んでいただいて、そのご意見を把握しそれからつぎに進みたいという気持ちです。 当時オリジナルスタッフの方々といっしょに制作してきたスタッフもずいぶん少なくなってきました。 関わっていた人間が誰もいなくなってしまう前に、『メタルギア』シリーズを10年先、50年先の未来に残すための道筋を作る。これは自分たちがやらなければいけないことだと思っています。 是角: どのタイトルもPCで遊べるようにしておけば、10年後、20年後と長く遊んでもらえる確率がもっとも高くなると考えていますので、それを実現するのが使命ですね。 ――TGS2024では国内初の一般向け試遊が実施されました。今後、本作をユーザーのみなさんが遊ぶ機会が訪れたとき、どのような点に注目してほしいでしょうか?: 是角: 最新のハードウェアで実現できる最高のビジュアルを目指して作っているので、ジャングルの表現やキャラクターの造形は、その出来栄えをじっくり見ていただきたいと思います。 岡村 : 『MGS』というシリーズタイトルを知らない方にプレイしていただいたとき、どんな印象を持たれるのだろうという点はとても興味があります。シリーズファンの方々にしっかりと受け入れてもらえる内容が大事なのと同時に、新しい層の方々に触れていただいて「こんなにすごいものがあったんだ」というのを、ぜひ感じていただけるとうれしいです。 ※TGS2024版『MGSΔ』レビューはファミ通.com関連記事をチェック!