「東京ミドル期シングル」とはどんな人たちなのか 「地縁血縁」を嫌ってきた人たちと「孤立化」
未婚率全国トップの東京23区で進む「日本の未来」とは。孤独担当大臣も知らない、35歳から64歳の「都市型」の自由と孤独に焦点を当てた『東京ミドル期シングルの衝撃:「ひとり」社会のゆくえ』がこのほど上梓された。同書を、井坂康志氏が読み解く。 ■人口構造は裏切らない 地形とか気候のようなもので、それは容易に変わることがないし、他の社会経済的条件を否が応でも決定づけてしまう。というよりも、ふだん目にする経済やビジネス、社会現象はおしなべてその副産物に過ぎない。
わりとここまではよく聞く話である。もちろん人口構造の話だ。 この本が対象とするのは、さらにその奥である。統計やデータブックでは目にするけれどなかなか実感の難しい、「生きた人口論」が展開されている。 「東京ミドル期シングル」 なんとなくきらめいた語感だ。バブル期のトレンディ・ドラマの登場人物が30有余年を経て蘇ったかのように。アーバンライフを嗜む往年の美男美女たちはどうなったのか――。こんなふうに読んでみるとまた違った味わいがある。
それはさておいても、思いのほか戦慄させられる。 何より周囲を一瞥しても、「東京ミドル期シングル」はありふれた日常になっている。ピーター・ドラッカーはそのような現象を「すでに起こった未来」と呼んだ。すでに起こっていることなのだから、それ以上あてになるものはない。 論調は控えめである。いや、相当に謙虚と言ってよい。大胆な未来展望とか、現状の解釈を積極的に行ってはいない。そうしたいと願っているようにも見えない。平明でドライで、客観的なファクトをこつこつと積み上げていく。探究姿勢には焦りがなく、学問的というにはホットで、評論というにはクールだ。
しかし、予期される帰趨は「ぬるく」も「控えめ」でもない。 かえって淡々とした文体が、静かなうねりのようなものを正確に抉り出している。世には多くの「危機好き」がいる。そういう人々が気楽に観念としか戯れられないのと反対に、正直、かつ率直、簡明に現実を語るのはやはり学者ならではの見事な仕事だ。 まずは現状を曇りなき目で見ること。そして、読み手それぞれの問題意識から、それぞれの場に持ち帰り、できることを行っていくこと。多くの思考の選択肢をもってほしいと著者たちは望んでいるように見える。