<映画評>狙撃手の光と影、戦争がもたらす悲劇 ─ イーストウッド監督最新作『アメリカン・スナイパー』
戦争映画というと派手な戦闘シーンを想像しがちだが、今作は臨場感あふれる戦闘シーンを内包しつつも、作品全体を包むテーマは“派手さ”よりも“重さ”の方が圧倒的だ。 公式記録としては米軍最多の160人を射殺し、味方からは「伝説の狙撃手」と英雄視されて、イラクの反政府武装勢力からは「ラマディの悪魔」と恐れられたカイルが、戦場で華々しい活躍を見せる一方で、戦争の狂気に取りつかれて精神を蝕まれ、愛する家族との間で軋轢を生んでいく。 そして、戦場という狙撃手にとっての晴れ舞台を離れ、安息の地であるはずの故国に身を置き、同じ苦しみを抱えるかつての“仲間”たちの支えになろうと第二の人生を歩み始めるが、そこに待っていたのは何とも悲し過ぎる結末だった…。 イーストウッド監督の手による優れた演出や描写はもちろん、過酷なトレーニングや食事制限に励み、実在したカイルと瓜二つと称賛されるクーパーのストイックなまでの役作り、卓越した演技力も特筆ものだ。戦場という極限の緊張状態が支配する空間の中で、クーパー扮するカイルが見せる一つひとつの表情が戦闘シーンの緊迫感やリアリティーを存分に高めて、観客を文字どおり生と死が隣り合わせの劇中の世界へといざなっていく。 それゆえに、英雄でありながら普通の人間でもあるカイルが迎える悲劇、戦争の悲惨さが生々しいまでに心を打つ。 国を愛し、家族を愛し、戦場を愛した孤高の英雄の光と影、そして戦争の悲劇を余すところなく描き切った今作が映画界に新たな金字塔を打ち立てることは必然だろう。 『アメリカン・スナイパー』 2月21日(土)新宿ピカデリー・丸の内ピカデリー他全国ロードショー オフィシャルサイト: 配給:ワーナー・ブラザース映画 (C) 2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC