雑種から種になったチョウ、「種とは何かの核心に迫る」発見、南米アマゾン
翅の模様で気づいた違和感
ドクチョウ属は花粉を食べる唯一のチョウのグループで、彼らがこの花粉を使って合成する「青酸配糖体」は、捕食者がおいしくないと感じる成分だ。彼らは、明るくコントラストの強い警告色で自分のまずさをアピールしている。 「ドクチョウ属の交雑種は、色のパターンが大きく異なるため、非常に目立つのです」と、ハーバード大学の生物進化学客員教授で、この論文の責任著者であるジェームズ・マレット氏は説明する。ドクチョウ属のチョウたちはお互いの警告色のパターンを模倣し(このようにしてできた擬態関係は「擬態環」と呼ばれる)、捕食者をより効果的に抑止するのに役立っている。 マレット氏は20年前に、H.エレバトゥスは後翅にオレンジ色の放射状の模様を持っているのに、H.パルダリヌスを含む近縁種はすべてトラのような黒とオレンジの横縞模様を持っていることに気づいた。H.エレバトゥスと同じ模様を持つのは、遠い仲間のH.メルポメネだけだった。 今にして思えば、これはH.エレバトゥスが雑種であることを示す決定的な証拠だったが、マレット氏がその疑いを裏付けるゲノムデータを得るまでには20年も待たなければならなかった。
「種とは何かという問題の核心に迫る発見」
マレット氏らがドクチョウ属のゲノム解析を進めている間、ロッサー氏はペルーでチョウを飼育するためのケージを設置してH.エレバトゥスの行動を観察した。 「ケージを作るのはたいへんでした」とロッサー氏は振り返る。「強風で折れた枝がケージの上に落ちてきて、チョウがみんな逃げてしまったこともありました」 また、すべての捕食者が擬態環の警告色によって抑止されるわけでもなかったという。「クモはチョウを食べました。そうした問題は、数え切れないほどありました」 マレット氏のゲノム解析をロッサー氏の行動学的研究と組み合わせることで、H.エレバトゥスのゲノムの中から、色のパターン、宿主植物の好み、交配相手の好みなどに関連する重要な領域が発見された。ロッサー氏とマレット氏を驚かせたのは、これらの重要な遺伝子の断片がすべてH.メルポメネに由来していたことだった。 H.エレバトゥスのゲノムのうち、H.メルポメネに由来する部分は1%しかなかったが、これらの断片はH.エレバトゥスのゲノム上で44個の独立の「ゲノムアイランド」に広がっていて、種の同一性にとって重要な特徴を制御していた。 マレット氏は、「このチョウの交雑種分化は50対50の混合で生じたのではありません」と言う。「種とは何かという問題の核心に迫る発見です」