「まるでジブリの世界!」日本人が持て余す“フツー”な「空き家」が外国人に大人気…米人社長は「駅から遠くてナンボ」
「Good feeling!(いい感じね!)」 緑が生い茂った庭を見て、アメリカ出身のローラさんが歓声を上げた。4年半前に来日し、現在は埼玉県内のマンションに住んでいるが、庭のある戸建てへの引っ越しを希望。この日は、同県小川町まで内見にやって来た。 【画像あり】1000㎡で530万円!「ジブリの世界」のような埼玉県の一戸建て 彼女に庭の説明をするのは、PR業を中心に不動産コンサルも手がけるパルテノンジャパン代表のアメリカ人、アレン・パーカーさん(35)。外国人向けに空き家を紹介するサイト「Akiya&Inaka」を2020年に立ち上げた。 「物件価格が安い空き家は手数料収入が見込めず、地元の不動産屋さんは取引に後ろ向きです。外国人の場合はなおさら、買いたくても敬遠されてしまうんです。そこで私たちが“仲人役”として、外国人が円滑に安心して空き家を購入できるよう、このサービスを始めたのです」 この日、ローラさんが内見をしたのは3軒。東武東上線で池袋から特急で約1時間の小川町駅が最寄りで、そこから徒歩で40分~1時間以上かかる物件ばかりだ。 「外国人は、都内から車で2、3時間かかろうが、まったく気にしません。むしろ、海や山や田んぼの中のような“日本らしい風景”が人気で、駅から離れていてナンボ。“ポツンと一軒家”を好みます」 ローラさんも、駅からの距離は気にならないという。物件に入ると、興味深そうに家の隅々をじっくりと見ていた。 「この(右写真の)物件は、内装にあまり手を入れなくても住めそうですし、大きな車庫もあるんですね。別の物件はまるで“ジブリの世界”。緑の中の隠れ家のようで、庭が広くてガーデニングもできそうね」 そんなローラさんの感性といちばんマッチしたのが、2軒めに内見した築42年の物件だ。 「欄間や照明の傘の彫刻、真鍮のドアノブなど、日本の文化が感じられてとても気に入りました。離れがあって、匂いのする料理をしても大丈夫そうだし、DIYも楽しめそう。そして家のすぐ裏に川が流れ、緑が広がる景色がとても素晴らしかったです。(流暢な日本語で)めっちゃきれい!」 ちなみに、ローラさんが感激した物件は「1982年築、敷地198㎡、建物101㎡」で、交渉中のため、価格は非公開。ほかに内見した2件は「1981年築、敷地300㎡、建物126㎡」で1080万円の物件と、「1985年築、986㎡、144㎡」で530万円の物件だった。 アレンさんは高校時代に交換留学生として岩手県遠野市で1カ月を過ごした。その後、上智大学に在学中に東日本大震災を経験した。 「親しみのある岩手県が大打撃を受けて、故郷を離れた人が戻ってこないと聞きました。そのことで、大学時代から空き家のことは気になっていて、『なんとかしなくては』とずっと思っていたんです」 依頼があれば、アレンさんは全国の空き家から希望者の条件に合った物件をピックアップし、提案する。顧客の9割は外国人で、物件の内見のために来日する人もいれば、実物を見ないでアレンさんたちがドローンを飛ばすなどして撮影した動画だけで購入を決める人もいるという。 「日本滞在中のバカンスを過ごすための別荘として使われる方もいます。日本が大好きで何度も来日していて、もっと深く日本を知りたい、自分の肌で経験したいという趣旨で、現金一括で購入する方が多いですね」 購入者は、投資目的ではなく、日本の生活を楽しみたいという人がほとんどだ。 「私たちが紹介したいのは和風で土地が広く、近くに緑がある物件ですね。1000万~2000万円くらいの取り扱いが多くて、500万円くらいのものもけっこうあります。外国人に人気なのは欄間や床の間がある畳の部屋。壁は砂壁、土壁がとても好まれます」 砂や土の壁はカビが生えたり、粉がボロボロ落ちたりするため、日本人からは敬遠されがちだが、外国人には魅力的に映るようだ。 また、最近は手入れが大変だからと庭のない戸建てが増えているなか、外国人はローラさんのように庭を希望する人が多いという。 「私たちが取り扱っているのは、昭和に建てられたごくふつうの物件が多いです。あまり価値は認められていないんですが、おもしろい物件が多いんですよ。日本のエイティーズ(1980年代)って雰囲気がいいですよね。でも日本人はなかなか買わないんです」 アレンさん自身、小川町で廃校となった中学校を活用するプロジェクトに参加して事務所を構える。 「小川町は長野県や群馬県、福島県のような地方のいい雰囲気、いい風、いい空気がありながら、私の都内の自宅から高速道路を使えば車で約45分、電車でも1時間ちょっととアクセスが非常にいい。人口は減っていますが、軌道に乗れば復活する町だと思っています」 一方、全国の空き家の数は増え続け、2023年10月時点で約900万戸もある(総務省調べ)。アレンさんの活動は、空き家問題の切り札になる? 「いやいや、外国人だけで空き家問題は解決できないです。でも、コツコツ活動をしていけば、世界に日本の田舎が認められるようになって、日本人も目を向けてくれるようになるんじゃないかと思うんです。当社のサービス名である『空き家』と『田舎』は、いまはネガティブワードですよね。それらをかけ合わせて、ポジティブに変えていければいいと思います」 トレードマークの蝶ネクタイを締めたアレンさんは、空き家を世界に発信するため今日も真っ赤なロールス・ロイスを走らせる。 ■日本人が「空き家も改修すれば快適だ」と気づく契機になる/明海大学 不動産学部 中城康彦教授 「日本の空き家に興味を持ち、住みたがる外国人が増えているのは嬉しく、いいことだと思います。日本人が『空き家には価値があり、改修すれば快適に住める』と気づく契機になるかもしれません」 そう語るのは、空き家問題に詳しい中城康彦教授だ。 賃貸でも、借り手が自らリフォームする代わりに安く借りられ、原状回復の義務もない「借主負担DIY型」の物件が徐々に増えている。 「これまでは、借り手がお風呂などをきれいにリフォームしても、退去のときにもとに戻す義務がありました。それがなくなったのは大きな前進ですが、借家人が魅力的なリフォームをして物件の価値を上げたなら、出ていくときに貸主や次の借主からお金がもらえる仕組みがあれば、空き家の状況は変わっていくと思います」 中城教授のゼミでも、空き家に興味を持つ学生は多い。 「若い世代が、空き家を住居や宿泊施設など、これからの多様な生活の受け皿として使っていく方向に向かってほしいですね」 写真・久保貴弘
週刊FLASH 2024年9月17日号