「第24回テレビ朝日新人シナリオ大賞」受賞作が発表 大賞は“推し活”と“夢を追うこと”がテーマのラブストーリー
「第24回テレビ朝日新人シナリオ大賞」の授賞式が、10月22日(火)に東京・六本木のテレビ朝日本社にて開催。受賞作を手掛けた新人作家3人の他、今回の選考委員を務めた岡田惠和、両沢和幸が登壇した。 【写真】「推さないでくれませんか?」で大賞を受賞した戸成なつ氏 ■今や多方面で活躍する脚本家を輩出してきた「テレビ朝日新人シナリオ大賞」 「フレッシュで有能な脚本家の発掘および育成」「制作現場の活性化と魅力的なコンテンツの提供」を目的として2000年に創設された「テレビ朝日新人シナリオ大賞」は、今日のドラマ界を支える脚本家たちを多数輩出してきた。 中でも、第2回で大賞を受賞した古沢良太は、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005年)、大河ドラマ「どうする家康」(2023年、NHK総合ほか)などの脚本を執筆。第8回に優秀賞を受賞した小峯裕之も、「家政婦のミタゾノ」シリーズ(2016年~、テレビ朝日系)、「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」(2024年、テレビ東京系)など、さまざまなドラマの脚本を手掛けている。 24回目となる今回は、“ラブストーリー”というテーマでテレビドラマの脚本を募集。実に957篇の作品がエントリーし、第3次選考までに9篇に絞り込まれた。その中から、選考委員の井上由美子、岡田、両沢による最終選考会が行われ、3篇の受賞作品が決定した。 ■大賞受賞作は“極限社畜の推し活”を描いたラブストーリー 第24回の大賞に選ばれたのは、戸成なつ氏の「推さないでくれませんか?」。勤務する人材派遣会社で“社畜”のように働き、精神的に追い詰められていた女性が、自身の“推し”であるお笑い芸人が仕事を求めて自社にやってきたことを機に、“推し活”として彼の世話をし、お笑い芸人として再生させようとする姿を描く。 大賞を受賞した戸成氏は、「この賞には何度も応募しました。何回も何回も落ちて、今こうやってここでお話しさせていただいていることに、まだちょっと実感がありません」と、今の率直な思いを明かす。 続けて、「今回は“ラブストーリー”というテーマだったんですが、その中に『夢を追う』というテーマも、自分の中で考えて入れさせていただきました。毎年発表される受賞者の方のコメントをこれまで何回も見ていて、今私がコメントしているのを誰かが見ていてくれているのかなと思うと、思いが込み上げてきます。『諦めないでずっと書き続けて良かった』、もうそのひと言に尽きます。一生書き続けたいと思います!」と喜びを語った。 また、“タイパ重視”の女性がお見合い結婚を目指す田中徳恵氏の「令和にお見合いしてみたら」、元彼が忘れられない女性が“クズ”な男子と付き合うことで、普通の恋愛の尊さを知ろうとする奈良さわ氏の「レンタルくず」が優秀賞を受賞した。 ■大賞受賞作は「応援したくなるさわやかな結末」(井上由美子) また、今回の選考委員を務めた岡田惠和、両沢和幸からも講評が。両沢は「人間の心情の変化を描ききるのは難しいものですが、それこそがラブストーリーの王道。戸成なつさんの作品は、それをきちんと貫いてるところがすごくよかったと思います。非常に楽しんで読みましたし、うまくキャスティングすれば、コミカルで面白いラブストーリーになると思います」とエールを。 岡田は「選考の中でも楽しく読んだ3作が残って、個人的にもうれしく思っております。大賞受賞作は全体的に駆け抜けた感があって強引なハッピーエンドも非常にいいなと思いましたし、ちょっと泣きました。ヒロインが何かをあきらめるというラストに爽快感があり、素敵だなと思いました」と、大賞受賞作を絶賛した。 さらに、授賞式には参加できなかった井上由美子もコメントを寄せ、「厳しい選考を勝ち抜いた3人の作品は、ラブストーリーというテーマを自分に引き寄せ、多くの人を楽しませる作品を生み出そうという意欲を感じました。 戸成なつさんの大賞受賞作はここ数年、ドラマで取り上げられる機会が増えた“推し活”を題材にしていますが、推される側の心情を丁寧に描くことで新しい切り口を獲得し、他の推し活ドラマとは一線を画していました。夢をあきらめながらも一歩踏み出すラストは、通り一遍のハッピーエンドではなく、応援したくなるさわやかな結末でした」と振り返った。 その上で両沢、岡田両氏から語られたのは、映像化に際してお笑い芸人のネタやアーティストの楽曲などを「面白いもの」「素晴らしいもの」として描くことの難しさ。戸成氏は自身もお笑いが大好きでリスペクトがあるからこそ、登場人物が大爆笑を取るネタの詳細をあえて描かなかったそう。その点について岡田は「もったいないけど自分もそうしたかもしれない(笑)」と明かし、難しいことにチャレンジした受賞者たちを称えた。 ■三者三様の賞金の使い道に笑いが 質疑応答では、大賞には賞金500万円、優秀賞には100万円が贈られることを受けて、受賞者3人に「賞金の使い道」について質問が。戸成氏は「昨日タイムリーに差し歯が取れてしまって(笑)。今日のために歯医者を何件も回って…みたいな(状況だったので)、いい歯を入れたいと思います」と思わぬ話が飛び出し、会場から笑いが起こる一幕も。 田中氏は「演劇をもっと見たいなと思っていて。今年4本見たんですけど、チケット代が結構高いので躊躇していけなかったものもあったので、もっと頻繁に演劇を見に行けるような生活をしたいなと願ってます(笑)」とコメント。 奈良氏は「12年物のノートパソコンをいまだに使っているので、新しいちゃんと薄いパソコンが買いたいなと思っています」と、商売道具となり得るものにしっかりお金をかける意思を明かした。 ■戸成なつ「推さないでくれませんか?」ストーリー 極限社畜の海老原みち(33)は、今にも死んでしまいそうな精神状態だった。そんなみちの前に、“推し”という神が現れる…。 みちが勤める人材派遣会社に、みちの推しであるお笑い芸人・星野優也(36)がやって来た。星野は物ぐさな性格のせいで先輩芸人から家を追い出され、半ばホームレス状態で仕事を探していた。みちは星野にもう一度お笑いでひと花咲かせてほしいと仕事探しを止めさせ、みちの家で養うと提案する。ここに“推したい女”と“逃げ出せない男”が生まれたのだった。 死にそうだったみちは、星野の世話(=推し活)によって元気を取り戻していく。だが、星野は三食付き、ゲーム、ネットし放題の生活に堕落してネタが書けない。「こんなんじゃダメだ」と、星野はせめてアルバイトをして家にお金を入れようとするが、求人誌もデリバリー用のリュックも捨てられてしまう。 みちは星野にお笑い芸人でいてもらわないと推し活ができない、推し活をしないと精神を保っていられないと、星野を縛っていた…。そしてついに、みちは星野の代わりにネタを考えるまでに。すると、そのネタがお笑いライブで大喝采。テレビ番組にも誘われるようになった。それがきっかけで星野はお笑いで自立してしまう。 お笑いでの自立に、何も言えないみち。そのとき、推し活ではなく、星野自身に依存していたことに気づく。しかし、案の定、他人が考えたネタでの活躍は長くは続かず、星野はすぐに挫折。ついに芸人引退を決意する。 みちはここぞとばかり、星野にまた家に来てほしいと提案するが、「僕はあなたの娯楽じゃない」と拒否される。そのとき、みちは星野の“辞める勇気”を感じた。実は、みちは中卒で学歴詐称して入社したため、怖くて会社を辞められなかったのだ。しかし、星野の姿を見て、自分もやっと辞める勇気を持つことができた。 そして、やっと無職になった女と夢を諦めた男は新たに出会い直し、一方的な推し活ではなくお互いを支えあう存在へと進みたいと願うのであった。