「このままではプロになれない」と飛び出した故郷、欧州で挫折しても諦めない U-23代表の田中、代表キャプテン追いかけ挑む世界への道
一時は遠く感じた五輪のピッチ。サッカー男子U―23(23歳以下)日本代表の田中聡(湘南)は巡ってきたワンチャンスをつかみ、希望を見いだした。長野市出身の21歳は日本のパリ五輪切符と自らの代表生き残りを懸け、15日開幕のアジア・カップ(ドーハ)に挑む。 【写真】パリ五輪切符が懸かる最終予選に向けて意気込みを語る田中聡
国際親善試合のウクライナ戦(3月25日・北九州市)は後半22分に投入された。その3日前のマリ戦は出番がなく、昨年10月以来となる代表のピッチ。「アピールが必要な立場」であることは誰よりも理解していた。 1―0の31分、左サイドにボールが収まった瞬間、インサイドハーフの田中は最前線まで一気に駆け上がった。ペナルティーエリア内でこぼれ球が田中の目の前に。「気づいたらシュートを打っていた」。強烈なシュートは五輪代表に望みをつなぐゴール。鮮烈な活躍で、4月4日に発表されたアジア・カップのメンバーに名を連ねた。
中学時代はAC長野パルセイロU―15でプレーした。ただ、県トレセンの一員として戦った他県のチームに歯が立たなかった。「このままではプロになれない。成長するためには外に出るしかない」と決意。最初に練習参加した湘南に将来性を評価され、加入を認められた。 育成に定評のある湘南で戦術や技術を吸収し、頭角を現した。2020年にJ1初出場を果たし、21年にはトップチームに昇格した。
同じ守備的MFで対人に強みのあるプレースタイルから、サポーターからは現日本代表主将の遠藤航(リバプール)の後継者と目されるように。かつて湘南で活躍し、世界に羽ばたいた遠藤は「追いかけている存在」だ。 同じピッチで戦ったことはないが、22年に湘南の練習に顔を出した遠藤と話す機会があった。「オーラや圧が違った。たくさんの経験と努力を感じた」。Jリーグを飛び出して飛躍した遠藤から刺激を受け、胸に秘めていた欧州挑戦への夢が膨らんだ。その年の夏、ベルギー1部のコルトレイクへ期限付き移籍した。 厳しい寄せにボールをキープすることすらままならず、初めての海外挑戦は1年足らずで終わった。ただ、欧州でもがいた経験は間違いなく今の糧になっている。「欧州はボランチでもどんどんシュートを打つ。みんな結果を求めている」。ウクライナ戦で見せた攻め上がりは、まさにベルギーで必要と痛感したプレーそのものだった。