軸に据え直したのはどんな状況でも「折れない心」。川崎F U-18にウノゼロで競り勝った前橋育英の逆襲はここから始まる!
[9.15 プレミアリーグEAST第14節 前橋育英高 1-0 川崎F U-18 前橋育英高校高崎グラウンド] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 自分たちの力がこんなものではないことなんて、自分たちが一番よくわかっている。思い描いていたような成績は収められていないけれど、もう過去を振り返っている時間はない。明日のオレが、明後日のチームが、必ず成長していることを信じて、とにかく目の前のボールを追い掛け続ける。 「やっぱり“折れない心”みたいなものが必要じゃないですか。ここで折れたらズルズル行ってしまうので、『絶対にオマエたちだったらできる』という話はずっとしているんですけど、今日の勝ちは結構大きいかもしれないですね。まあ、これからです」(前橋育英高・山田耕介監督) 手負いのタイガー軍団がきっちり披露したリバウンドメンタリティ。プレミアリーグEASTでもなかなか結果を引き寄せ切れない前橋育英高(群馬)が難敵相手に収めたこの日の勝利は、彼らの今シーズンを大きく左右するぐらいの価値を持つことに、疑いの余地はない。 「もう背水の陣でしたからね」。チームを率いる百戦錬磨の将、山田耕介監督はこの日の一戦についてそんな表現を口にする。プレミアリーグEAST第14節。ホームに川崎フロンターレU-18(神奈川)を迎えた前橋育英は、やはりホームゲームとなった前節の昌平高(埼玉)戦で前半に2点を先行しながら、後半に3失点を献上して大逆転負けを喫していた。 「ハーフタイムでも『次の1点が勝負だ』とは言っていて、次の1点をどう獲ろうかといった時に相手に押し込まれると、自分たちも疲労というところで足が止まってきてしまったところで、立て続けに3失点してしまって……。そういうところが自分たちの未熟なところですね」。 もともとはサイドバックが本職ではありながら、今季はセンターバック起用が続いているDF青木蓮人(3年)の言葉が重く響く。同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。「後半は疲弊してスカスカになってきちゃって、結果的に3点獲られて逆転負けという形で、今週の1週間の練習は監督もそこに凄くこだわっていて、選手も『ラスト15分や20分から落ちてはダメだ』ということは共通認識として持っていました」とはキャプテンを務めるMF石井陽(3年)。前橋育英の選手たちは最後まで全員で走り切る覚悟を携えて、キックオフの笛を聞く。 前半は想定外の展開となった。ただし、ポジティブな意味で。「試合に入る前は相手に持たれるだろうということで、『守備から入ろう』という意識でやっていたんですけど、始まってみたら自分たちもボールを持てるシーンが多くて、どちらかというと相手の保持シーンの方が少ない感じがしたので、そこは逆に良いところとしてプラスに捉えていました」(石井)。攻撃力に定評のある川崎F U-18を向こうに回し、石井やMF柴野快仁(2年)のドイスボランチがボールをしっかりと動かしながら、テンポアップのタイミングを窺い続ける。 後半は時間が進むにつれて、少しずつ劣勢の時間こそ増えていったものの、青木とDF鈴木陽(3年)のセンターバックコンビを中心に、ゴール前へ築く堅陣。中央を締めつつ、強力なサイドアタックにも丁寧に対抗し、最後の局面はGK藤原優希(3年)が冷静にシュートを捌いていく。 途中出場のエースは、その瞬間を虎視眈々と狙っていた。29分。鈴木の送り込んだフィードを、後半開始からピッチに送り込まれていたFWオノノジュ慶吏(3年)は「最初は背後を狙ったんですけど、相手がちょっとミスして、そこを逃さずにかっさらえました」ときっちり収め、そのままエリア内へ侵入すると右足一閃。GKのニアサイドを破ったボールが、ゴールネットを鮮やかに揺らす。1-0。残り15分あまりで前橋育英がリードを奪う。 負けられない川崎F U-18は攻め続ける。「正直キツかったですけど、最悪押しこまれてもゴールだけは全員で守ろうという意識はみんなにあったと思うので、そこは徹底してできて良かったと思います」(青木)「同じ失敗を繰り返さないということは監督からも言われていたので、守備のところで後半の最後までしっかりやり続ける、無失点に抑えるということを意識してやりました」(オノノジュ)。前橋育英はまさにラスト15分を全員で、懸命に凌ぎ続ける。 5分間のアディショナルタイムが過ぎ去ると、タイムアップの笛が聞こえてくる。「相手にボールを持たれ始めた時にしっかりみんなで声を掛け合いながら、際のところだったり、勝負所をしっかり共通認識できたので、最後まで身体を張り切れた部分が今節の勝因かなと感じます」(石井)「負けていたらすごくダメージは大きかったので、勝てて良かったです」(山田監督)。ホームでの連敗を回避し、貴重な勝点3をもぎ取ったタイガー軍団。ピッチの選手たちにも、応援エリアの選手たちにも、歓喜の笑顔が広がった。 昨季のチームのラストゲームとなった、高校選手権2回戦の神戸弘陵戦に出場していた選手が8人残るなど、一定の経験値を有する顔ぶれの揃った今年の前橋育英は、周囲からの期待を集めていたものの、いきなりプレミアで開幕3連敗を喫すると、インターハイ予選では準決勝で共愛学園高にPK戦の末に敗退し、県連覇が6でストップ。ここまでは想像していたようなシーズンを送れていないのが現状だ。 この夏は10泊11日の合宿も敢行し、改めて自分たちの足元を見つめ直してきたという。「他のインターハイに出ているチームが全国を戦っている中で、自分たちは合宿とか練習をしているだけで、『オマエら、全国に出れていないんだぞ。逆にこの期間に何ができるんだ?』という問いかけを監督からされました」(オノノジュ)。それぞれの選手が自分のストロングとウィークを洗い出し、改善点を真摯に突き詰めていく。 キャプテンの石井は夏休みの期間で得られたものに、手応えを掴んでいるようだ。「5つの原則をもう1回見直しました。どんな試合でもその5つの原則は発生する部分なので、それをみんなで求め合ったり、厳しくするところは厳しく言い合ったので、そこをしっかり見直すきっかけになったかなと思います」。 「もちろんインハイに出られなかったことは、チームにとっても応援してくれている人たちにとっても残念な結果で、個人としても凄く責任を感じることでしたけど、しっかりとバネにしてやっていかないとその負けが無駄になってしまうので、そこをネガティブに捉えず、良い方向に持っていくことを意識していたので、今は良い方向に持っていけているかなと思います」。それだけに重ねた努力の意味を実感する意味でも、とりわけこの日の勝利が重要だったことは言うまでもないだろう。 加えて山田監督は、チームの競争力が高まってきていることも指摘する。「夏は競争が一番でしたね。いろいろな子をいろいろなポジションで試したりして、その結果として陽が出てきたと。あの子は効いていますよ」と言及したように、前節の昌平戦でプレミアデビューを飾った鈴木陽は、強力アタッカー陣の揃う川崎F U-18相手にも十分対抗。勝利の一翼を逞しく担ってみせた。 石井も鈴木の存在がチームに与える影響を、ハッキリと感じているという。「陽はプリンスに出ていた時からしっかりゲームを締めてくれる役割をしていたので、そこを前節も今節もしっかり発揮できていたことで、徐々にみんなからも監督からも信頼を掴んでいるんじゃないかなと。下のカテゴリーから良い選手がどんどん出てくると、もともとプレミアにいた人も刺激になりますし、良い競争にもなると思うので、チームの活性化に繋がるなと思いました」。新戦力の台頭と既存戦力の意地が、グループの総合力を引き上げていく。 今年のチームに残された時間は、長くても4か月あまり。石井がみんなで共有した決意をきっぱりと口にする。「もう残るはプレミアと選手権だけなので、育英として最高の結果を残すために、1試合1試合、ワンプレーワンプレーにしっかりこだわって、チーム全体で1つになって、良い結果を掴んでいきたいなと思っています」。 どんなに苦しい状況になっても、どんなに厳しい現実を突き付けられても、このチームの軸に据えるべきは『折れない心』。勝利を義務付けられた上州のタイガー軍団が、その真価を問われるのはまさにここから。2024年の前橋育英が真剣に狙う逆襲は、果たしてどこまで。 (取材・文 土屋雅史)
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