欧州で相次ぐゴールデンビザ廃止、スペインも決定 不動産価格高騰で
いわゆる「ゴールデンビザ」として知られる、不動産投資による居住権付与を行っているスペインが、同制度の廃止を決定した。同様の制度を提供している欧州の国の中でも、スペインは最も人気があり、成功を収めていた。 スペイン政府は、外国人富裕層が不動産投資によって居住権を「購入」することができるゴールデンビザ制度は物議を醸しており、不動産投機を制限し、「住宅購入が単なる投機的な取引ではなく、住民の権利であることを保証するため」に同制度を廃止すると発表した。 イサベル・ロドリゲス住宅・都市問題相は9日に開かれた閣僚会議で、2013年に同制度の運用が始まって以降、不動産投資によるビザ(査証)を1万4576件交付したと報告。申請者の出身国は主に、中国、ロシア、英国、米国、ウクライナ、イラン、ベネズエラ、メキシコだと説明した。同相によると、申請件数は過去2年間で特に増えており、2022年には2017件、2023年には3273件、2024年2月時点ですでに424件のビザが承認された。実際、この急激な増加がスペイン政府の警戒心に火をつけ、ゴールデンビザ制度の全面的な廃止を決定するに至った。 ■高騰する不動産市場 欧州連合(EU)加盟国以外の国民が、50万ユーロ(約8200万円)以上の不動産を購入することでスペインの居住権を取得することができるこの制度によって、同国では住宅価格が高騰。特にゴールデンビザ発給の9割が、バルセロナ、マドリード、マラガ、バレアレス諸島、アリカンテ、バレンシアといった人気地域に集中しており、これらの地域では地元住民、とりわけ若い住宅購入希望者にとって、不動産は手の届かないものになっている。
政治的に有害なゴールデンビザ制度
スペインのペドロ・サンチェス首相は、深刻な住宅難に陥っているこれらの地域では「そこに住んで働き、毎日税金を納めている住民がまともに住める場所を見つけることがほぼ不可能になっている」と指摘。「これは私たちが必要としている国のあるべき姿ではない。なぜなら住宅の投機的な売買によって格差が拡大するなど、私たちは多大な被害を受けているからだ」として、政府は今週にも、国内外で論争を呼び、厄介な政治問題となっているゴールデンビザ制度の廃止に向けた第一歩を踏み出すと明言した。 同制度の廃止を決定する前の昨年時点では、スペイン政府はゴールデンビザ取得に必要な最低投資額を現行の2倍となる100万ユーロ(約1億6400万円)に引き上げることを検討していた。 ■政治的に有害なゴールデンビザ制度 スペインでは、不動産価格の高騰によって住民が住み慣れた地元から追いやられる中、手頃な価格の住宅を確保することが国民の最大の懸念事項となり、ゴールデンビザ制度が政治的に「有害」と見なされるようになった。この問題を巡って連立政権内部には亀裂が生じ、同制度を廃止する圧力が強まった。 米経済メディアのビジネスインサイダーによると、経済協力開発機構(OECD)は、スペインの若者が親元から独立する平均年齢が昨年、EU平均の26歳を大幅に上回り、30歳に達したとの調査結果を報告した。この理由について同機構は、スペインの若者は親元を離れて就職活動をすることが難しく、成人として独立することが困難になっていると分析している。