シュツットガルト・バレエ団プリンシパル、エリサ・バデネスが、ふたりのヒロインへの思いを明かす
マリシア・ハイデのアドバイス
──日本公演でのもうひとつの演目、『オネーギン』は、クランコの代表作であり、日本でも1973年以来幾度も上演、その度に観客の心を捉えてきました。ご自身も6年前の日本公演でヒロインのタチヤーナを踊られていますが、この6年間で、タチヤーナへの向き合い方、踊り方に変化はありましたか。 いつもいつも、この役を踊ることを喜ばしく思っています。言語化することは難しいけれど、6年の間にいろんなことがあったので、もともとあった知識や感覚に加えて、身体に染み込んできたものがたくさんあったと感じています。一番の出来事は、昨年、素晴らしいプロジェクトに取り組んだこと。この10月にドイツで公開される、クランコのことを描いた映画(ヨアヒム・ラング監督『クランコ』)で、彼のミューズだったマリシア・ハイデを演じたのです。この映画では『オネーギン』創作当時のことが描かれます。撮影現場にはマリシアも来ていたのですが、ここで私は『オネーギン』が実際にどのようにして始まったのか、またその背後にあるジョンのアイデアをより深く理解することができました。 ──撮影現場ではハイデさんから直接アドバイスを受けられたのですか? 私、すごく緊張していたんです。だって彼女自身を演じるのですから(笑)! でも、最高のアドバイスをもらいました。「エリサ、あなたは自分自身のままでいなさい」と。私が、「いや、私はあなたのことを演じるのですよ」と訴えると、「大丈夫。そのままで大丈夫よ」と言ってくれたのです。完成した映画を見て、彼女が「とても良かった」と言ってくれて、やり遂げることができたんだなと思いました。 ──ところで、世界バレエフェスティバルのBプロでは、ケネス・マクミラン振付の『うたかたの恋(マイヤーリング)』のパ・ド・ドゥを踊られましたね。 クランコとマクミランは同世代で、同じ時代に創作をしていました。同世代ということは、その時代に起きたいろんなことから影響を受けていると思います。クランコとマクミランは、パートナリングの仕方、その複雑さにおいて似ているところがありますね。異なるところといえば、クランコにはマリシアというミューズがいたということ。彼女には独特のオーラと生々しさがあり、そんな彼女が踊ったバレエですから、クランコのバレエにはそうした彼女の個性が投影されたものが多いのではないかなと感じるのです。 ──いつも、そうした部分を意識しながら踊られているのですか。 いいえ。そうは考えません。どちらかというと自由にだと思っています。優れた振付家が紡いだステップやストーリー、そこには、私たちが自由に取り組むことができるものがたくさんあって、特定のタイプを追わなければいけないということは全くないんです。バレエの美しさはそこにあると思いますし、いろんなダンサーのバレエを見たら、いろんなバレエが好きになるのだと思います。 ──では最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。 いつも日本に帰ってくることができ、嬉しく思います。皆さんに笑っていただいたり、泣いていただいたり、様々な感情を抱いていただけるよう、精一杯努めます! 取材・文:加藤智子 <公演情報> シュツットガルト・バレエ団2024年日本公演 ◎『オネーギン』全3幕 振付・演出:ジョン・クランコ 音楽:ピョートル・チャイコフスキー 編曲:クルト=ハインツ・シュトルツェ 装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ 演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 2024年11月2日(土)~11月4日(月・休)※各日14時開演 会場:東京・東京文化会館 ◎『椿姫』プロローグ付全3幕 振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:フレデリック・ショパン 装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ 演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 2024年11月8日(金)~11月10日(日)※8日(金)18時半開演、9(土)・10(日)※各日14時開演 会場:東京・東京文化会館