国境なき医師団の日本人スタッフが見た「最悪の人道危機」スーダンの現実
アフリカ北東部のスーダンで内戦が発生してからまもなく1年。女性や子どもに対する暴力や人道支援への妨害といった戦争犯罪が報告されるなど状況の悪化が懸念されるが、国際社会からの関心は低く、「忘れられた紛争」とも称される。 【画像】国境なき医師団の日本人スタッフが見た「最悪の人道危機」スーダンの現実 現地で活動する世界的な医療・人道援助団体「国境なき医師団(MSF)」が3月末に都内で記者会見を開き、4人のスタッフがスーダンとその周辺国の状況について語った。 空爆や戦闘の犠牲になる無辜の市民、人道支援や医療活動への妨害、深刻な飢餓、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ子どもや女性に対する性暴力──ウクライナやガザを彷彿とさせるこうした出来事は、アフリカ北東部の国スーダンで起きていることでもある。 2023年4月15日、スーダン国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」との間で内戦が発生した。以来、首都ハルツームなどでは戦闘が続き、民間人への暴力が横行しているが、和平に向けた調停は難航している。 戦闘による犠牲者の数は、現在明らかになっているだけでも1万3900人を超え、避難民の数は810万人に達するなど、状況は深刻だ。米紙「ワシントン・ポスト」によれば、民兵による身代金目当ての誘拐が増加するなど治安も悪化しており、女性は性奴隷として売られることもある。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のエデム・ウォソヌ氏はこうした被害の大きさから、スーダン内戦は「近年、最悪の人道危機のひとつ」だと述べている。
「理不尽な暴力」を体感
2023年4~10月に「国境なき医師団(MSF)」の看護師としてチャドに赴任していた佐藤太一郎さんは、紛争が激化した同年6月から国境地域でスーダン難民などへの救急医療に従事した。 佐藤さんによれば当時、チャド側の病院には毎日100人以上の患者が押し寄せたが、そのほぼ全員が銃による外傷を負っていた。指を切断された少女や、銃で太ももを撃たれて骨が砕けた赤ん坊、顔をナイフで切られた人などに対応することで、残虐な暴力を体感したという。 戦火のなか国境を越えて病院にアクセスできるのは、医療を必要としている人のほんの一握りだ。それにたとえ治療を受けられたとしても、紛争下で完治が難しい人や障がいが残る懸念のある人も多く、「患者さんたちの行く末が不安になり、なぜこんな理不尽なことが起こるのかと疑問がわいた」と佐藤さんは話す。