高齢者だけのものじゃない? 女性に多い「認知症」を取り巻く問題
認知症患者の男女比
通常の職業的および社会的機能に支障が出るほど認知力、思考力、記憶力が低下する認知症には、複数のタイプがある。もっとも一般的なタイプはアルツハイマー型で、全世界の認知症例の70%を占める。その次に一般的なパーキンソン病認知症とレビー小体型認知症は全体の20%を占め、男性にやや多い。残りの10%は血管性認知症と前頭側頭型認知で、前者は男性にやや多いけれど後者は男女間の差が少ない。 「この4つのタイプの認知症は、脳細胞の異なる問題に原因があり、異なる症状を引き起こします」と説明するのは神経学者のジェイムズ・グラトウィック博士。 「例えばアルツハイマー型認知症は、アミロイドというタンパク質が原因となって記憶力に影響を与えますが、パーキンソン病認知症はαシヌクレインという別のタンパク質が原因となって判断力に影響を与えます」 英政府の国民保険サービス(NHS)に属するセント・トーマス病院と、民間医療サービスHCA Healthcare UKに属するロンドンブリッジ病院の両方で働くグラトウィック博士によると、女性の患者数は男性の2倍で、最近は30代~50代の人々が認知症に対する警戒を強めている。 「若い認知症患者を目にする機会が増えているわけではなく、社会全体として数十年前より健康に関する理解が進んでいます」とグラトウィック博士。「最近は、なにかおかしいと思ったらすぐに助けを求める傾向が強くなっている、つまり、問題が早い段階で見つかるということです」 科学の進歩によって、認知症を未然に防げる可能性も高くなっている。2022年には認知症の初期兆候を診断の9年前に見つけられる可能性があることを示す研究結果が発表され、今年に入ってからは30代で受ける聴力検査が脳機能低下の早期発見につながるという論文も発表された。
認知症の症状と診断
でも、認知症になるのは高齢者だけという誤った認識は、65歳未満の人の診断を遅らせる。NHSのデータも、更年期の女性は認知症の診断に2倍の時間がかかることを示している。Dementia UKで若年性認知症を担当する認知症認定看護師のジュール・ナイトによると、集中力や記憶力の低下を引き起こすブレインフォグは、更年期の女性にも多く見られる問題。 更年期障害は、57歳でアルツハイマー病と診断されたジュード・ソープが劇場の舞台主任としての大事なタスクを忘れてしまうようになっても、病院に行くのを躊躇った理由の1つ。「あのときは自分がなにをするべきなのか分からず、パニックに陥りました」と現在60歳のジュードは話す。「本当に恥ずかしい思いをしました」 パートナーのベッキーに背中を押されて病院へ行ったものの、認知症の診断を受けるまでに5年かかり、病院を3度も変えた。「最初はショック状態でしたし、昔からアクティブで自立したタイプだったぶん、それまでのやり方を変えるのにも時間がかかりました」とジュードは続ける。「自分が誰だか本当に分からなくなり、悲嘆に暮れる日々でした。人生が一変し、周囲の人は、当時10代だった2人の娘を含めてみんな、私が介護施設に運ばれると思っていました。とても現実のこととは思えず、不安な気持ちでいっぱいでした」 クロエ・ハーヴェイ(26歳)の母親の症状も、最初は更年期障害のせいにされた。気分のむらや慢性的な物忘れで、自分の問題を正確に伝えることが難しくなっていた。「複数の病院を行ったり来たりで、診断に1年を要しました」とクロエ。「鉄欠乏症とも、うつ病とも、甲状腺疾患とも言われましたし、“女性の問題”で片付けられることも多かったです。それで診断が遅れました」。そして2018年、大学で授業を受けていたクロエは、記憶力テストと脳スキャンの結果、若干53歳の母親が早発性アルツハイマー病と診断されたことを父親からの電話で知った。 「幼い頃から母は私のすべてでしたし、アルツハイマー病が治る病気ではないことを知っていたので、絶望感に襲われました」。州の助成制度が一切ないことを知ったクロエは実家に戻り、母の介護に3年を費やした。「そのせいで20代を好き勝手に生きられなかったのは確かです」とクロエは話す。「でも、母と過ごせる時間は限られていましたからね」