おかえりなさい、早見和真さん 「ジャックの“1ばん”さがし」「アルプス席の母」にこめた思いとは(前編)
2008年のデビュー以降、日本推理作家協会賞受賞の「イノセント・デイズ」や山本周五郎賞受賞の「ザ・ロイヤルファミリー」など、多くの話題作の発表を続ける小説家早見和真さん=東京都。16~22年には松山市を拠点に活動し、愛媛県内では愛媛新聞で連載する童話「かなしきデブ猫ちゃん」シリーズの作者としてもおなじみだ。 新刊のPRのために来県した早見さんに、愛媛への思いや東京での執筆の様子などを語ってもらった。(聞き手・山本憲太郎) Q.6年間暮らした愛媛への久々の「帰郷」だ。 A. こうやって公の仕事で戻ってくるのは1年半ぶりくらい。正直、悔しいけど、ホッとしている。その悔しさが何かというと、愛媛に対してのものではなくて、「今が一番楽しい」と言っていたい自分の中に「やっぱり愛媛時代はよかった」なんて気持ちがよぎりそうなムカつき(笑)。 Q.作家としてのキャリアをスタートさせた東京に新天地を求めた。どんな2年を過ごしたか。 A.デビューしてすぐに東京を離れ(静岡県の)伊豆で6年、松山で6年、それぞれの場所でやり方を変えながら小説を書いてきた。伊豆が家からほとんど出ず、ひたすら書き続ける「閉じる」だとすれば、松山ではできる限り外に出て、地域にもコミットしていく「開く」がテーマだった。 東京での生活も長くて6年と考えていて、年齢や体力を含め最後の無理をする6年になると思う。なので依頼された仕事は全部引き受けるつもりで、あえて言うならテーマは「受け入れる」。今はリラックスできる瞬間がなく、自分でもかなり無理しているのを感じる。だけど、この2年は戦えたし、あと4年は戦えると信じて。生に執着なんてしないタイプだったけど、2、3年後の自分の身に降りかかるであろうことが楽しみになっているのは、これまでにない感覚かな。 Q.執筆にまい進する日々の中から生まれた作品の一つが、「かなしきデブ猫ちゃん」のスピンオフである「ジャックの“1ばん”さがし」(2月29日発売)。なぜあらためて愛媛を旅する物語だったのか。 A.デブ猫ちゃんはデブ猫ちゃんで一つの形を築けたと思うし、当時の小学2年生だった娘にめがけて書くということもいまだにブレてはいない。一方で、もっともっと小さな、初めて本に触れるような子どもにアプローチしに行きたいという気持ちがずっとあった。 とはいえ、デブ猫ちゃんは小説と絵本の中間のイメージであって、自分に絵本そのものを書けるのかという不安もあった。そんな時にデブ猫ちゃんの新聞連載などに協賛してくれている大一ガス(松山市)さんに「やってみなよ」と背中を押され、挑戦する覚悟を決められた。
愛媛新聞社