海外のレストランやパブで「日本の音楽」が再生されても「報酬が支払われない」という異常事態
クリエイターが活動する環境の整備が不十分
知的財産戦略本部構想委員会コンテンツ戦略ワーキンググループ委員をつとめる内山隆氏(青山学院大学総合文化政策学部教授)は「制度としてはグローバルスタンダードに合わせるべき」と言う。 知的財産戦略本部が6月に発表した「新たなクールジャパン戦略」にも、政府の取り組みとして「実演家・レコード製作者に対して適切な対価を還元する観点から、国際的な著作権制度や報酬請求権の導入に係る関係者の合意形成及び円滑な徴収・分配体制の見通し等を踏まえつつ、実演家・レコード製作者への望ましい対価還元の在り方について検討を進めるべきである」との提言がなされている。 今後は法改正を経て国際的な著作権制度との調和が図られていくのが望ましいだろう。 また、「知的財産推進計画2024」では、クリエイターへの収益還元と活動環境の整備についても触れられている。 特に音楽の分野においては、デジタルプラットフォームの普及によって、従来のようにメジャーレコード会社や大手事務所に所属せずとも個人で楽曲を配信し収益を得ることが可能になってきている。また、たとえばVTuber のファンコミュニティに見られるように、ユーザーによる二次創作、三次創作など「n次創作」のコンテンツが共有されることで楽曲が広まっていく例も指摘されている。こうしたユーザーは楽曲をただ聴くだけでなく、UGC(User Generated Content/ユーザー生成コンテンツ)の担い手となる。 こうした時代の変化を踏まえて指摘されているのは、クリエイターが活動する環境の整備が不十分であることだ。アナログ時代のビジネスモデルや商慣習を前提とした契約が行われ、クリエイターに適切な収益が配分されていないということが問題視されている。 内山教授は「幅広いアーティストが適正な報酬を得て活動を続けられるような社会制度を考えていくことが必要」と言う。 「特に音楽に関しては、ただ聴くだけではなく誰しもが作り手になっていけるという環境が徐々に出来始めています。将来的にはそうしたことを踏まえて報酬分配をするための仕組みも議論しなければいけない。クリエイターが自分の才能を活かしてステップアップしやすくなる、そういう社会システムを目指すのが望ましいと思います」(内山教授) 日本のポップカルチャーの強みはクリエイターの裾野の広さにある。その土壌は、インディペンデントなミュージシャンやクリエイターが自由に創作活動を繰り広げる環境があってこそ豊かになる。 そうした環境の整備が進むことに期待したい。
柴 那典(音楽ジャーナリスト)