映画「658km、陽子の旅」― 菊地凛子、入魂の演技が光るロードムービー!
20年ぶりの監督主演コンビによる、敗者の人生の再生!
思えば菊地凛子の初主演作「空の穴」(2001)は熊切監督の商業映画デビュー作でもあり、ふたりのコンビはそれ以来20年ぶり(撮影時)。その後、菊地凛子は「バベル」(2006)で米アカデミー賞助演女優賞にノミネートされるなど国際的な女優へと成長した。その原点「空の穴」を振り返ると、あの映画で彼女は恋人と喧嘩して、北海道のガソリンスタンドに無一文で捨てられていく女性を演じていた。映画では彼女と出会うことで、それまで無為な生活を送っていたガソリンスタンドの経営者・市夫(寺島進)が、人生を再生させていく姿が描かれたが、親しい人と切り離される孤独な女性、どうしようもない状態から自分の生きる道を見つけようともがく女性を描くという点では、二つの映画には響きあう部分がある。今回のメイキング映像を観ると菊地凛子は、監督が狙っているもの、欲しがっている表現が感覚的にわかったと言っているが、このコンビには、彼らにしかわからない描きたい女性のイメージがあるのかもしれない。
菊地凛子の涙を収めた、見どころ満載の特典映像
今回のDVDとBlu-rayには特典映像も満載。メイキング映像には菊地凛子をはじめ、主要キャストのコメントは勿論、厳寒の2021年冬に行われた撮影風景が収録されている。面白いのは車を使ったロードムービーだけに、陽子と彼女を車に乗せる運転手たちとの車中シーンが多いが、それらのほとんどがLDEパネルに写した、窓外の風景を背景にして撮られていること。車自体をスタジオ内に固定して撮ることで、俳優たちの芝居をじっくりと見せることに成功している。他にも完成披露試写会や公開記念の舞台挨拶、第25回上海国際映画祭での授賞式シーンや、予告編映像を収録。各舞台挨拶で菊地凛子が思わず泣いてしまう場面が印象的で、彼女にとってもこれは思い入れが深い作品だったことが分かる。その入魂の演技を多くの人に観てもらいたい。 文=金澤誠 制作=キネマ旬報社
キネマ旬報社