「あなた、売りたいものを売りつけられているよ」FPの話をうのみにしてはいけない生保勧誘の罠
初回は、出てきた講師役の男性ファイナンシャル・プランナー(FP)が、為替やリスク・リターンなど金融の基礎知識を親身に説明してくれた。2回目もそんな講義めいた場だった。 だがそれ以降、個別商品の勧誘が始まった。 「貯蓄の代わりに保険を使う」 こうしたFPの「教え」を信じたといい、相続した財産から、外貨建ての変額保険2本(計4000万円)を一括払いで契約。死亡した際に多額の保険金を受け取るのはすべて祖母だった。「プロが教えてくれたのだから、そういうものだろう」と思っていた。「長期の備えは整った」などとし、一括払いで契約した商品とは別に、今度は毎月支払うタイプの保険を次々と契約していった。 変額保険や医療保険、がん保険……。月額保険料は最終的に33万円に上った。当時、自身の月収は22万円だった。月収を上回る保険料は、投資信託の毎月の分配金から支払えば良いとし、「それが複利効果だ」との説明を受けた。最初に一括払いの保険2本に加入した際、分配金がおりるタイプの投信も勧誘を受け、1300万円で購入していたのだ。 だが、その約2年後。 投信の運用成績が振るわず分配金が減り、保険料の足りない分が預金口座から引かれるようになった。最後には、給与の多くが月々の保険料に抜かれていくようになってしまい、日々の生活を圧迫するようになった。 さすがに違和感を持ち、別の会社のFPに契約を見てもらい、告げられた一言に驚いた。 「あなた、売りたいものを売りつけられているよ」 ■「マネーセミナー」のワナ 近年、こうした「マネーセミナー」が活況だ。金融庁が2019年に「老後の生活費として2千万円の蓄えが必要」とする報告書を出したことも後押しする。24年には新しいNISA(少額投資非課税制度)も始まり、投信への関心は高まる。親身に応じてくれるが、思わぬワナがひそむ。
そんなセミナーを、実は生保の乗り合い代理店が運営していることが多いのだ。「お金のお勉強」というハードルの低い入口を用意し、先生・生徒の関係性をつくった後、不必要な金融商品を勧誘し、高額な手数料を得る。 母親から遺産を相続した女性が通ったセミナーを運営していたのも保険代理店だった。女性は「今となっては恥ずかしいですが、金融商品を勧誘する人たちとすら知りませんでした」と悔やむ。この代理店が、女性への販売で得た手数料は640万円に上った。 ほとんどの保険会社は、自社商品の多数契約については、本社から電話で確認をしたり、禁止したりといった自主的な取り組みを一定程度進めている。だが乗り合い代理店であれば、あえて複数の保険会社の商品に分散して加入させてしまえば、生保1社ごとのチェックの網はすり抜けてしまう。 ■「対応は適切だった」と代理店社長 遺産を相続した女性が通ったセミナーを運営していた保険代理店の社長は取材に「対応に問題があったとは思っておらず、適切だった」と主張した。根拠に挙げるのは契約の際の確認書だ。 「他の会社にはない独自の確認書をつくっており、女性から全て意向通りだとの署名を記入してもらっている」と強調。「女性からの積極的な来店と投資意向による結果」とした。 加えて、女性が一括払いの保険や投信に入ってもまだ資産が残ることから、「月々の保険料が月給よりも高いとしても、(投資のタイミングを複数にわける)『時間分散』の観点からご案内した。余裕資産は十分にあったなかでの事柄であり、問題ない」と主張した。 こうした会社の姿勢に対し、女性は「母から引き継いだすべての資産をリスクのある金融商品に変えるまで勧誘され続けたかもしれない。そう考えると、恐ろしい」。