相次ぐ密航船の転覆事故で多数の死者も 移民・難民、なぜ増える?
欧州の取り組みは?
長年の移民・難民の流入で、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデンなど欧州の多くの国で外国人比率は10%を超え、難民・移民排斥を唱える右翼政党が勢力を強めています。イスラム過激派の流入に対する不安感もあり、欧州諸国には何十万人もの難民・移民を受け入れる政治的・経済的・社会的余裕はありません。 しかし、実態が経済移民であっても、いったん入国して「私は難民だ」と主張すれば、難民を迫害の恐れのある出身国などに強制送還してはならないという「ノン・ルフルマン原則」ゆえ、難民か否かの審査結果が出るまで強制送還はできません。実際、密航者のほとんどが「私は難民だ」と主張します。このような難民申請者がイタリアなどに数十万人いるほか、リビアなどで密航待ちの人々も数十万人いると言われます。 このため欧州諸国は、密航者が自国にたどり着けないように、洋上で密航船を発見したら追い返す「水際作戦」に出ました。領土内に入っていないので「ノン・ルフルマン原則」違反にはなりません。しかし、これは転覆事故の間接的原因ともなり、国際的な非難を浴びました。人権保護を標榜するEUとしてもこの事態は放置できず、当面の対策として、海上を漂う密航者の救助はするものの、密航船を破壊するなどの手段を検討しています。根本的な解決はシリア内戦の終結やリビアの国家再建、アフリカ諸国の貧困削減ですが、その見通しは暗いままです。 ミャンマーのロヒンギャ漂流民についても、マレーシアやインドネシア政府は人道的見地から3000人を保護したものの、いずれ第三国が受け入れることを条件としています。今も2000人が漂流しているようです。ミャンマー政府がロヒンギャ族への差別的扱いを止めることが解決の道ですが、ミャンマー国民の反ロキンギャ感情も強く、解決の見通しが立ちません。
日本の取り組みは?
日本は中東やアフリカの紛争諸国から遠いこともあり、多数の紛争難民が押し寄せることはありません。日本語の難しさ、難民コミュニティがないことに加え、難民として認めてもらうことが極めて難しいことが世界に知られているため、殆どの難民は欧米諸国に向かいます。 日本で難民として認められるのは年に10人前後にすぎません。にもかかわらず、最近、難民申請者が急増し、去年は5000人に達しました。なぜでしょうか。背景には、正規ビザで入国して難民申請をすれば半年後には就労することを2010年に法務省が認めたことがあります。難民と認められなくても申請を繰り返せばその間働き続けられるようになったことで、日本で働くことを目指す経済移民にとって、難民認定制度が「抜け道」となったのです。このため、現在、法務省は難民認定手続きの修正作業を続けています。 他方、日本は世界各地での難民支援への資金的支援では世界でトップクラスです。毎年、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に拠出される資金は300億円前後で、これにより世界各地の300万人以上の難民が支援を受けています。日本の難民政策は、難民受け入れはごく少数だが、海外の難民支援のためのカネは出す、というものです。ですので、「何人の難民の命を救ったか」という観点からは日本の難民への対応は評価されるのですが、国内受入数があまりにも少ないため、全体としての評価は分かれているのが現状です。 移民・難民問題は人権・人道問題と政治問題が絡み合う複雑な問題です。今回の密航船問題を機に、この問題に対する理解が進むことが期待されます。 --------------- 滝澤三郎(たきざわ さぶろう) 1948年長野県生まれ。東京都立大学大学院、法務省、カリフォルニア大大学院の後、国連ジュネーブ事務局、UNRWA、UNIDO、UNHCR駐日代表を経て東洋英和女学院大教授。専門は難民研究。著書に「難民と国内避難民の保護を巡る潮流」(国連研究第第14号)、『難民・強制移動研究のフロンティア』(共著2014年現代人文社)、“Urban Refugees around the World(共著2015年Routledge社)など。