「新築ではLDKを広くしたい」問題。気鋭の建築家が疑問に思う“広いダイニング”の必要性
---------- 人生でいちばん高価な買い物、マイホームをせっかく建てたのに、「こんなはずじゃなかった」と後悔する人があまりに多いのはなぜなのか? 気鋭の建築家・内山里江氏は言います。 「日本人が家づくりに失敗する最大の理由は、たとえば『家は南向きじゃなきゃダメ』とか『窓は大きいほうがいい』といった『間違った常識』によるものです。私は本書でそうした間違った常識をすべてひっくり返します」 内山氏の最新刊『家は南向きじゃなくていい』から、間違いだらけの家づくりをしないための方法を連載形式でお届けします。 ---------- 令和の家づくりの新常識「みんなでテレビを観ない今の時代、広いリビングはいらない」
LDKの話 中途半端な家ができる理由
リビング、ダイニング、キッチンの頭文字をつなげて「LDK」といいますが、この空間は「食とくつろぎ」のスペースです。家族みんなで過ごす場所だからでしょうか、特にリビングは「広くしたい」と多くの人が声を揃えます。ではリビングを最優先するのかといえば、「大きなダイニングテーブルを置きたい」「家事がしやすいようにキッチンも広くしたい」と続くことがほとんどです。しかし、LとDとKのそれぞれを少しずつ広くしたところで、中途半端な家ができてしまうだけです。 このように、何を優先してよいかわからなくなりがちなLDKのレイアウトを考えるうえで起点にすべきなのは「ダイニング」です。ダイニングは食事をする場所ですよね。ここでどのように過ごすかを明確にすることで、キッチンとリビングの配置やボリュームは自然と決まってくるのです。
食事時間の短い家庭は「キッチンダイニング」が最適
「個食(孤食)」という言葉もありますが、とにかく現代人は忙しいので、せっかく大きなダイニングテーブルを用意しても家族が一緒に食事できるとは限りません。塾や習い事で子どもたちの食事時間は不規則になりがちですし、親御さんといえば、お子さんが食事をしている傍らでバタバタと家事をこなしていることも多いでしょう。 このような、食事にゆっくり時間をかけられない忙しいご家庭には、大きなダイニングテーブルを置くスタイルよりも、キッチンと合体したカウンター形式の「キッチンダイニング」のほうが合っていることも多いです。写真のように、キッチンと向かい合う形のカウンターで食事をするのです。 キッチンとカウンターがつながっているため、料理やお皿を運ぶために移動する手間が省け、さくっと食事をすませたい人や、家族の食事時間がバラバラなご家庭などには大変効率的なスタイルです。キッチンで家事をしつつ、カウンターで宿題をする子どもの様子を見たり会話したりできるし、忙しい日々のなかでも家族とのコミュニケーションを大事にしやすい利点もあります。 なお、このようなカウンター形式の場合、キッチンとカウンターの高さのバランスにはよく気をつけねばなりません。「カウンター用の椅子は高さがあって長く座ると疲れるから通常のダイニングチェアを置こう」と考える人もいらっしゃいますが、カウンターをダイニングチェアの高さに合わせてしまうとキッチン側からカウンターに手が届きにくくなり、家事効率が一気に落ちてしまいます。料理を出したり皿を下げたりといった度にキッチンからカウンターまで回り込む必要が生まれ、わざわざキッチンとカウンターをくっつけるメリットが台無しになるのです。 たしかに、カウンターに合わせた椅子は、太ももが座面と並行ではなく斜めになることから、長時間座るのには不向きです。そのため、このようなスタイルのダイニングを選ぶなら「食事はささっとすませ、くつろぐのは別の場所」が前提条件です。「ダイニングテーブルを囲んでゆっくり時間を過ごしたい」とのご要望がある場合は別の形を考えるべきでしょう。 あくまで、必要もないのに広々としたダイニングスペースを確保することはない、という話です。 続きは<令和の家づくりの新常識「家族みんなでテレビを観ない今の時代、広いリビングはいらない」>です。
内山 里江(一級建築士 株式会社コモドデザイン代表)