「戦争に行くのは若者と相場が決まっている」 反骨のジャーナリストが抱えた「怒り」の源は
盟友ボブ・ディランと分かち合ったもの
ピートはいつだって自ら現場へ足を運んでは、市井の人々の声なき声を一つひとつ丁寧に拾い集め、表情たっぷりに書き入れた。そのコラムを読んで、「ピートはジャーナリズムに文学を取り込んだ」と評したのはアイルランド人作家のコラム・マッキャンだったが、それこそがニュージャーナリズムの始まりだったといえるのだろう。 「血の轍」のライナー・ノーツを改めて読み返してみると、ピートがその詩をどれほど深く理解し、“あの時代を生き延びた声”として捉えていたかがわかる。ボブ・ディランとはプライベートでも親しくつきあっていたというが、ふたりの心に通底していたものもまた、「怒り」だったのではないか……。 ボブ・ディランやローリングストーンズに並んで、数多のジャズのLPレコードを仕事部屋に置いていたピート。原稿をタイプする、あの機関銃のような音のバックにはいつもチャーリー・パーカーの曲が流れていた。 (第3回に続く) ※『アローン・アゲイン 最愛の夫ピート・ハミルをなくして』より一部抜粋・再編集。
青木冨貴子(アオキ・フキコ) 1948(昭和23)年東京生まれ。作家。1984年渡米し、「ニューズウィーク日本版」ニューヨーク支局長を3年間務める。1987年作家のピート・ハミル氏と結婚。著書に『ライカでグッドバイ――カメラマン沢田教一が撃たれた日』『たまらなく日本人』『ニューヨーカーズ』『目撃 アメリカ崩壊』『731―石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く―』『昭和天皇とワシントンを結んだ男――「パケナム日記」が語る日本占領』『GHQと戦った女 沢田美喜』など。ニューヨーク在住。 デイリー新潮編集部
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