物価上昇率は緩やかな低下傾向を辿る(2月CPI):賃金の大幅上昇は輸入ショックからの経済の正常化過程
基調的な物価上昇率は緩やかな低下傾向が続く
総務省は3月22日に2月分消費者物価指数(CPI)を公表した。コアCPI(除く生鮮食品)は、前年同月比+2.8%と前月の同+2.0%から大きく上昇した。しかしこれは、前年2月に導入された政府の物価高対策の影響が剥落したことによるものであり、概ね事前予想に沿った結果であった。季節調整済前月比は0.0%と、2か月連続で低下している。 2月のCPIの前年比上昇率を1月分と比較すると、前年の物価高対策の影響で、エネルギーが0.93%ポイントの押し上げとなった。また、インバウンド需要宿泊料が+0.06%の押し上げとなった。他方で、生鮮食品を除く食料は-0.13%と押し下げに寄与した。
生鮮食品を除く食料は、昨年夏には前年同月比で+9.2%と2桁近くにまで達していたが、その後は2月の同+5.3%まで急速に低下している。海外から輸入する食料品原材料価格の上昇が一巡し、さらに企業による製品への価格転嫁が一巡してきているためだ。 この食料品価格の動きに代表されるように、海外市況の上昇による財価格の上昇率は、着実に低下してきている。 より基調的な物価動向を示す食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合CPIは前年同月比+2.5%と前月の+2.6%から低下した。この数値、つまり2%半ば程度が現時点でのCPIの基調的な上昇率の水準と捉えることができる。それは緩やかな低下基調を辿っており、年内には2%を下回っていくことが予想される(図表1)。
賃金上昇のサービス価格への転嫁が進むかどうかは不確実
他方で、2月のサービス価格は前年同月比+2.2%と前月と同水準となった。サービス価格の上昇率は、昨年末から頭打ちとなっており、日本銀行が「賃金と物価の好循環」、「賃金上昇を伴う持続的な物価上昇」実現の観点から注目している、賃金上昇のサービス価格への転嫁が強まっている証拠は見られない。 先般の春闘での賃上げ率(主要企業、第1回集計)が5.28%と33年ぶりの水準に達したことで、「賃金と物価の好循環」、「賃金上昇を伴う持続的な物価上昇」実現への期待がさらに強まっているのが現状だ。 ただし、賃金交渉の結果だけで、経済環境のトレンドが大きく変わると期待するには慎重であるべきではないか。賃金交渉とは、企業と労働者の間で所得の分配、つまりパイの取り分を決めることに他ならない。それが、実質GDPの成長率を高め、個人の生活を持続的に改善させる契機になるかどうかは不確実だ。 春闘での高い賃上げ率が、この先、サービス価格にどの程度転嫁されていくかについてもなお不確実だ。賃金上昇率は上振れたが、一方で、消費者の物価上昇への懸念はなお根強い。仮に春闘での賃金上振れをきっかけに、実質賃金が上昇に転じるとしても、1月までに22か月連続で低下してきた実質賃金の今までの低下分を取り戻すまでには、なお相当の時間がかかる。 そのため、賃金上振れ後も個人消費は弱さが残り、その結果、賃金上昇分のサービス価格への転嫁も、思うようには進まないのではないか。 また、仮に賃金上昇分がサービス価格に顕著に転嫁されることになれば、それは実質賃金の水準が回復することの妨げとなり、結局は、個人消費の回復を妨げることにもなりかねない。