伝統継承か? 留学生加入か? 予選会で見え隠れした箱根駅伝の問題点
箱根駅伝に留学生が姿を現したのは、第65回大会(1989年)のことだ。山梨学大のジョセフ・オツオリが花の2区に登場して、1年生ながら7人抜きの快走を見せた。山梨学大の成功を受けて、平成国際大が留学生パワーを武器に箱根駅伝に出場。ケニア人留学生を起用することは、新興勢力が行う強化方法のひとつになった。12年前には日大にケニア人留学生が入学する。当時は、「あの名門が!」と多くの関係者が驚いていた。だが、今では日大にケニア人選手がいるのは当たり前の光景になっている。 ある監督はこんなことを言っていた。「留学生は麻薬みたいなもの。一度使ってしまうとやめられない」と。言葉は良くないが、その存在感を示す上で的確な表現だろう。彼らは育てる必要もなく、来日したときから、日本人よりも強い選手ばかりだからだ。 そのため、学生駅伝界における「留学生」は、交換留学生のような位置づけではなく、プロチームにいる外国人と同じ。“助っ人”と呼ぶ方がピタリとくる。現地や日本国内でセレクションをする場合もあるが、いずれも現地にいる代理人が日本のチームに選手を紹介。選手は当然、授業料が免除され、生活費も大学側が負担する。そして、選手を紹介した代理人に数百万円の手数料を払うケースがほとんど。ひとりの留学生をチーム に入れるのに、少なくない費用がかかるのだ。 新興大学が箱根駅伝の出場を果たすためには、留学生の力が必要不可欠になりつつある。伝統校ではOBや関係者からの反発も少なくないが、日大はケニア人留学生を受け入れることで、今回の予選会を突破した。予選会を突破できなくなった中堅校でも、「来年は留学生が入る」という噂をよく聞く。ケニアには貧困から抜け出すチャンスを日本でつかみたいと願う若者がたくさんいることもあり、大学側から見れば、留学生はマネーで購入できるアイテムになっているのが現状だ。 留学生の存在が悪いとは決して思わない。チームに「走力」以外の+αをもたらしてくれるなら、日本人も彼らに学ぶことはたくさんあるからだ。しかし、留学生を擁する大学がこのまま増加していくと、日本人選手しかいないチームは、箱根駅伝の予選会を突破できなくなる危機を迎えることも考えられる。 今回の予選会では、留学生が上位で走った日本薬科大が21位から18位、同じく桜美林大が30位から25位と躍進した。留学生を擁する大学は、日本人選手の強化が進めば、今回の創価大が見せたような戦いが可能になってくるだろう。 伝統の継承か。それとも、留学生を受け入れてでも出場を死守すべきか。4年後の東京五輪を経て、7年後には記念すべき第100回大会を迎えることになる箱根駅伝は新たな問題に直面している。 (文責・酒井政人/スポーツライター)