「世界的ダンサー」が「57歳で新人俳優」に…“俳優”田中泯を生んだ「名匠との出会い」
「田中泯はダンサーで俳優である」
『たそがれ清兵衛』以後、田中は俳優としてのキャリアを重ね、これまでにいろいろな監督と仕事をしてきた。その後も山田洋次監督作にはたびたび出演。先日、第96回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した山崎貴監督の作品にも3本出ている。 そして『PERFECT DAYS』(2023年)は『ベルリン・天使の詩』(1987年)で知られる名匠ヴィム・ヴェンダース監督の作品。犬童一心監督による『名付けようのない踊り』(2022年)という自身のドキュメンタリー映画も作られた。それぞれの監督について、どのような印象があるのか? 田中「監督について個別に評価できる立場ではありません。ただ言えることは、それぞれが素晴らしいということですね。皆さん、根本的に映画に対する考え方がまったく違う。だからといって、どの監督も作品を私的空間にしてない。僕は個人性が広ければ広いほどすごい監督だと思うのです」 近年は日本の映画人が関わった作品が海外の映画賞をとる機会が目立ってきた。『PERFECT DAYS』では役所広司が主演男優賞をとり、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』(2023年)、山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』(2023年)がアカデミー賞を受賞した。濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(2021年)はアカデミー賞の国際長編映画賞ほか各国の映画祭で多くの賞を獲得した。『PERFECT DAYS』でカンヌ映画祭を経験した田中自身も、そうしたムーブメントの輪の中にいる。 田中「いやあ、僕はそんな風にうぬぼれてはいないですね。本当に僕が俳優を始めたのは57歳ですよ。それで、自分が何事か成し遂げているなんて思ってないです。踊りは60年の間、もっと何かある、もっとある……と追い求めてきましたが、それでも“死ぬまでにたどり着けるのか?”と思っているぐらい。それに比べて俳優は20年ですから」 そして、まだ「自分は俳優だ」と自信を持てた作品もないという。 田中「ただ、世の中が僕はダンサーであるということを完全に認めてくれるようになりましたね。“田中泯はダンサーで俳優である”という扱いになった。そこは大きな変化であり、とても嬉しい部分です。踊りと芝居というお互いに影響し合っている2つの表現を一人でやっているわけですから。まあ、俳優のほうはそれほど大したことありませんが(笑)」 とことん謙遜する田中だが、そのフィルモグラフィーを眺める限り、いかに「田中泯を使ってみたい」という制作者が多いかということを理解できるだろう。 田中 泯(たなかみん) 1945年3月10日生まれ。クラシックバレエとモダンダンスの訓練を経て、1974年「ハイパーダンス」と名付けた独自のダンス活動を開始する。1978年には、パリ・ルーブル美術館で1か月間のパフォーマンスを行い、海外デビューを果たした。1985年、山梨県の山村へ移住。農業を礎としながら、国内外でのダンス公演は現在までに3000回を超える。一方、俳優としても活動し、デビュー作となった2002年公開の映画『たそがれ清兵衛』では、初映画出演ながら複数の賞を受賞。その後、多くの話題作に出演している。2022年には、その生き様を追った、ダンサー田中泯の本格的ドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』は釜山国際映画祭にノミネートされた。2024年4月からは、新田真剣佑と親子を演じた「Disney+」の配信ドラマ『フクロウと呼ばれた男』が公開。2024年3月にはエッセイ集『ミニシミテ』を講談社から出版した。 ミゾロギ・ダイスケ
ミゾロギ・ダイスケ