藤間爽子が『ブギウギ』に再登場! 真の力量が表れる“変化したタイ子”をどう表現する?
朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)に藤間爽子がようやく再登場。この瞬間を心待ちにしていた方は多いことだろう。しかし、何やら穏やかではない様子。彼女が演じるタイ子は、どうにも体調が優れないらしい。あの爽やかな笑顔が印象的な彼女のこれまでに、いったい何があったのだろうか。 【写真】スズ子(趣里)の楽屋に乗り込んできたおミネ(田中麗奈) 藤間が演じるタイ子とは、本作のヒロイン・福来スズ子(趣里)の大親友だ。ふたりは同じ小学校の出で、転校してきたスズ子に最初に話しかけたのが彼女だった。卒業後にスズ子が「梅丸少女歌劇団(USK)」に進んだのに対し、タイ子は芸者である自身の母と同じく芸の道へ。そうして各々の道を歩んできた。 物語はスズ子にフォーカスして進んでいくため、それ以降のタイ子は何度か姿を見せただけにとどまり、具体的にどうしているのかは分からなかった。戦争が起き、誰もが翻弄された激動の時代。いくつもの大切なものをスズ子は失ったが、タイ子の生活の様子を見るかぎり、彼女も大きな困難に見舞われているらしい。まだ幼い息子が靴磨きで家計を支えているようなのだから。 先に記しているように、かつてのタイ子はチャーミングな笑顔が特徴の人物だった。けれどもいまの彼女は表情そのものが乏しい。とても弱っていて、以前とはまるで違う。何があったか分からないが、タイ子を不憫に思ういっぽう、ここは演じる藤間の力量に触れられる貴重な機会でもある。 私は“藤間爽子=タイ子”が登場したばかりの頃、「朝ドラ『ブギウギ』で藤間爽子は誰もが知る存在に 踊りと親友ポジションに膨らむ期待」と題した記事の中で、表現者である藤間の“ルーツ”に言及した。彼女は劇団「阿佐ヶ谷スパイダース」の一員でもある俳優にして、日本舞踊の流派のひとつである紫派藤間流の家元を務める存在だ。「三代目藤間紫」という名を持ち、日本の伝統芸能のひとつを継承している。タイ子は芸者なのだから、『ブギウギ』で藤間の踊りが見られることに期待しないわけにはいかない。事実、そういったシーンは用意されていた。短いものではあったが、多くの視聴者がハッと息を呑んだことだろう。 藤間が踊るシーンはこれだけで、思いのほか少ない。スズ子とのコラボレーションなど夢想したものだが、タイ子がいまの様子では難しいだろう。しかし、藤間の力量に触れるには十分だ。このような状態のタイ子をどう表現してみせるのかに、藤間の真の力量が表れるはずなのだから。 健康な人間が普通に眠るのと、体調が優れない人が寝込むのはまったく違う。おそらくほとんどの方が、このどちらも経験しているはず。元気なときは寝床からすぐさま立ち上がることができるが、調子の悪いときは思うようにはいかない。立ち上がることはおろか、寝返りを打つことさえ困難だったりする。腕だってうまく上げられず、呼吸も不安定。ふとした拍子に思いがけず姿勢を崩してしまう。繰り返すようにほとんどの人がこの経験をしているはず。しかし、これを元気なときに再現できるだろうか。私には無理だ。 不調時には不調時の、心身のリズムというものがある。これを私たちがコントロールするのはかなり厳しい。水差しに向かって伸ばした手は、意思に反して震えて届かないかもしれないし、そもそも見当違いなところを彷徨うことにだってなる。こういったものは勘ではなく、俳優自身の身体に対する意識の強さによって表現が実現可能となるもの。つまり、これもひとつの踊りだと捉えることができる。タイ子の様子を見守りながら、このあたりも注意深く見つめてはいかがだろうか。藤間爽子の“踊り”には、タイ子の“これまで”が表れるはずである。
折田侑駿