CO2の排出権取引は儲かるの?<投資で損をしないため>学ぶ制度導入の背景とCO2特有の構造、難解なシステムの仕組み
先月、群馬県警と長野県警の合同捜査本部が、二酸化炭素(CO2)の排出権取引の投資名目で金をだまし取った詐欺容疑により男女11人を逮捕したと報道されました。16億円を集めたとみられるとのことです。 騙された人の中には「CO2の排出権取引という言葉を聞いたことがなく、どんなものか関心を持った」との理由で資金を投じた被害者もいたようです。 CO2の排出権取引を持ち掛ける投資詐欺は以前からありますが、温暖化とその対策に関する報道の増加に合わせ、排出権取引に関心を持つ人が増え、詐欺グループが活躍しやすくなっているのではと思えます。 CO2の排出権は温暖化の目標を達成するために企業が用いるもので、個人が取引市場に参加することは基本的にないはずです。騙されないためにも排出権とはどんなものか、少し難しいですが、経済学の視点からも学んでおきましょう。 排出権取引で儲けることは可能でしょうか。結論から言えば、確実に儲けられる取引は世の中にはありません。排出権取引も同じです。将来価格の予想は極めて難しい取引です。
環境問題と外部不経済
経済学では「外部性」との考えがあります。当事者の行動が三者に影響を与えることです。 たとえば、工場が製造に使用した廃液を処理せず川に流せば、下流に住んでいる人は被害を受けます。分かり易い例は下流で魚を取っている人が失う利益です。外部費用あるいは外部不経済と呼ばれます。 第三者に損害を与える外部不経済を考え、当事者が対策を取ることはありません。市場経済の下で利益を考え行動する工場が、下流の人の被害を考え、生産数量を少なくする、あるいは排水処理設備に投資することはありません。利益が減るからです。被害は市場の外にあり工場の製品価格には反映されていません。
外部性を削減する方法を考えましょう。まず、外部性の表し方を考えます。市場経済では価格と数量は需要と供給が一致する点で決まります。図-1の需要曲線と供給曲線の交点Eです。 均衡価格と呼ぶこの価格より高い値段を出しても良いと考えていた消費者は均衡価格との差を満足感として得ます。図の三角形PEBが全消費者の満足感を表し消費者余剰と呼ばれます。 一方生産者のコストは供給曲線に沿い上昇すると考えられ、生産者は、三角形DEPの利益、生産者余剰を得ることができます。消費者余剰と生産者余剰を合わせた三角形DEBが社会全体の利益、社会的厚生になります。 外部不経済がある時には、社会には損失が生じます。たとえば、ガソリンの販売数量と価格がE点で決まったとします。一方、ガソリンの消費によりCO2が排出され温暖化を促進し社会は損失を被ります。 ガソリンの消費がもたらす温暖化の被害を含めた社会的費用は社会的限界費用曲線で表され、外部不経済の大きさは四角形DECAで示されます。