杏、日本とパリの二拠点生活での気づき「人に甘えるのがうまくなった」
■子育てで大切にしていること「親は絶対ではない」
本作の撮影はフランスに渡る直前に行われた。「撮影中はちょうど夏休みの季節で、ロケ地である長野県にうちの子どもたちも連れて行ったんです。泊まっている宿泊施設には、友人家族も来てくれて、私が撮影で現場に行っているときは、その家族と子どもたちが一緒に日本の夏休みを満喫していました」と渡仏前のいい思い出になったことを明かす。「フランスには行きっぱなしではなく、ちょくちょく戻ってきているので、しんみりした感じではなかったのですが、とてもいい時間でした」。 本作の撮影が終了した2日後に渡仏したという杏。そこから新たな場所での子育てが始まった。「子育てをするうえで心掛けているのは、親は絶対ではないということ。間違いがあれば正してほしいし、子どもから質問されれば答えますが、それが正解かどうかはわからないという気持ちでいます」と持論を展開する。 本作は母と子という関係性にプラスして、父と娘という二重構造で物語は進む。そこには認知症という問題にどう向き合うかという切実なテーマもある。 「千紗子の父・孝蔵を演じた奥田さんは、現場ではお父さんのキャラクターが抜けきらない状態でいらっしゃいました。だからこそ、こちらも自然と関係性を作っていけましたし、すごいアプローチ方法だなと思って見ていました。暴れているシーンは、演じているとわかっていても迫力や怖さがありました」。 ■フランスに来て「いい意味で丸くなった」 30代後半を迎え、演じる役柄にも変化が生じてきている。しかし自身のキャリアには、意識してビジョンを持つことはしないという。 「私たちの仕事はひとりではできないんです。自分の力だけでは作品に巡り合えないんですよね。これまで私は、『こんな役をやりたい』と言ったことはないんです。お声をかけていただいて、『こういう役を自分にくださるんだ』と驚きとともに台本を開いています」。 だからこそ「すごく恵まれています」と人との出会いに感謝する。「フランスに滞在してから約1年半が経過して、いい意味で丸くなったかな」と語ると「20代のころはがむしゃらに仕事をして、人に頼る余裕もあまりなかったんですよね。でも今は物理的な距離があるため、スケジュール調整など、人を頼らざるを得なくなっていて。同時に人に対する垣根も低くなったような気がします。少しは甘え上手になったかな?」と変化を述べる。 外国に来て感じたことは「日本が自然に馴染んでいる」ということ。杏は「日本映画も結構劇場でやっていますし、生活の一部として日本が溶け込んでいるんです。たとえば、スーパーに入ると、カキやシイタケ、ナシとアルファベットで書いてあったり、“ふじ”と書いてあるリンゴが置いてあったり。日本の文化がフランスでも浸透しているんだなと実感するところです」と気づきを述べていた。 「撮影で2日に1日ぐらいは泣いていた」という、杏にとって8年ぶりの主演映画となった本作。「2年前に撮影されたものがようやく公開になります。私自身は、今後のことはあまり想像できませんが、来るべき時にしっかり対応できるように、日々研鑽を積んでいきたいです」と語っていた。 取材・文/磯部正和 写真/山崎美津留