中日2年目田中幹也の反骨心 難病と大けが克服、浮上目指すチームで躍動
プロ野球中日で、身長166センチ、体重68キロの小兵が躍動している。亜大からドラフト6位で入団して2年目の田中幹也内野手(23)。ルーキーイヤーは右肩の脱臼でシーズンを棒に振ったが、復帰した今季は開幕から2番二塁で出場。俊足を生かした守備範囲の広さと、しぶとい打撃が持ち味だ。2年連続最下位からの浮上を目指し、4月に一時は8年ぶりの単独首位にも立ったチームに貢献している。度重なる試練を乗り越えた田中の野球人生とは―。(時事通信名古屋支社編集部 浅野光青) 【写真】2022年の全日本大学野球選手権決勝で先制の2点適時打を放ち、ガッツポーズする亜大の田中幹也 ◆「今年こそやり返す」 開幕後の本拠地初戦となった4月2日の巨人戦。七回の好機で内角速球をコンパクトに捉え、中前に同点適時打を放った。その後、チームはサヨナラで今季初勝利。初めてお立ち台に上がった田中は、こう語った。「本当は去年からやるつもりだったけど、けがでできなかった。今年こそやり返す気持ちでグラウンドに立っている」。右肩手術を受けてから、ほぼ1年。「元気にグラウンドに出ることが一番。結果が出ても出なくても昨年からしてみれば成長」と感慨深そうに話した。 50メートル5秒9の俊足。俊敏なフットワークで打球を処理する。神奈川の強豪、東海大相模高で野球をしていた父と幼少期から守備練習を重ねてきたといい、グラブさばきに優れ、ボールの握り替えも早い。二遊間を組む遊撃手の山本泰寛内野手は「守備範囲が広いし、ほんとに心強い」と感心する。 2番打者として、まずは犠打をきっちりと決める。1死三塁からゴロを打って得点を導くなど、的確にチーム打撃ができるのも魅力だ。打率は2割台中盤にとどまるものの、少しずつプロのレベルに適応している。4月16日のヤクルト戦では初の3安打をマークし、そのうちの2本を大ベテランの石川雅規投手から放った。神奈川県出身で、幼い頃から神宮球場には何度も訪れ、石川が投げる試合も見たことがある。「まだ僕の中ではテレビの人というか、素晴らしい投手から打てたのはうれしい」と初々しく喜んだ。 ◆潰瘍性大腸炎を乗り越えて 逆境をはね返してきた野球人生だ。東海大菅生高(東京)で2年生の夏に甲子園4強入り。亜大に進んで3年生の夏、難病の「潰瘍性大腸炎」と診断された。血便が出るなどの症状はあったものの、本人はストレスだと思っていた。しかし、スズメバチに刺されて検査を受けた際、病気だと分かった。 2度に分けて計3カ月入院。体重は11キロも落ちた。いくつかの薬を試しても効果がなく、大腸を全て摘出する手術を受けた。半年間野球から離れ、「心が折れた」。それでも、チームメートの励ましもあり、リハビリを経て復帰。大学4年生の春は1試合6盗塁を決めるなど、主将として東都リーグ制覇に貢献。全日本大学選手権でも優勝し、最高殊勲選手賞に輝いた。 2022年秋のドラフト会議で指名を受けてプロ入り。23年1月、名古屋市の中学校で講演し、生徒たちを前に胸中を明かしている。「正直、夢を諦めかけていたが、小さい頃からのたった一つだけの夢をきっぱりと諦めきることはできなかった。病気を経験したからこそ、どんなにつらいことも乗り切れると自負していて、ここまで来られた。1年目で新人王を取り、いずれはゴールデングラブ賞や盗塁王を取れるような選手になりたい」 ◆開幕スタメン目前に脱臼 そう意気込んで始まったプロ生活。キャンプから存在感を示し、オープン戦では打率3割3分3厘をマーク。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に臨む日本代表「侍ジャパン」との合同練習で行われた実戦形式の打撃練習で、ダルビッシュ有投手(パドレス)から安打も放った。開幕スタメンを手中に収めかけていた矢先。3月19日のオープン戦で一塁に頭から帰塁する際、右肩を脱臼した。「本当にあと一歩というところで(開幕スタメンを)逃してしまった」 リハビリに励む間、1軍では同期入団の村松開人、福永裕基両内野手が90試合以上出場した。「このままだと埋もれてしまう」。危機感を募らせるばかりの日々。できることは限られる。寮の自室で1軍戦をテレビで見ながら、相手投手の投球を合わせてバットを振ることも。「イメージだけなら10割打てる」と笑いつつ、「イメージ通りにいくような甘い世界ではないと思うが、本当にいつでもいく準備はしていた」と語る。迎えた2年目の24年。2軍キャンプで本格的に復帰すると、オープン戦で1軍に呼ばれ、1年越しの開幕スタメンを勝ち取った。 ◆期待を寄せる立浪監督 田中に最も期待を寄せるのが、立浪和義監督だろう。スカウト部長の松永幸男さんによると、ドラフト上位レベルの技術を持っていながらも、体力に不安を抱えるため指名が遅れた。そんな中、東都リーグでのプレーを見て評価していた立浪監督が、ドラフト会議の場で指名を進言したという。松永さんは「正直ラッキー。あそこ(6位)まで残ると思っていなかった。監督の『いきましょう』というひと言に後押しされ、指名することになった」と振り返る。その指揮官は新入団選手発表の記者会見で、「中日を変えてくれる選手」とまで言った。 チームは守り勝つ野球を掲げる。今季の開幕直後、立浪監督は「二塁に田中が入っているのがポイントかなと思う。センター寄りの難しい打球を結構アウトにしてくれている」と評価。打撃についても、「つなげる田中の役割も大きい。技術を持っている。元気だったら、それなりにできる」と信頼を寄せている。 今は体力面が考慮され、休養日をもらいながらの起用となっている。田中は、そんな首脳陣の気遣いに感謝して「だからこそ結果を残したいし、出るからには全力でいきたい」。出塁後にけん制球で帰塁する際は頭から戻ることができないなど、右肩への不安も消えていないが、気持ちだけは強く持っている。「今季は1軍にい続けることが目標。100試合以上出て、規定打席に乗りたい」。それがかなえば、新人王の可能性も出てくる。